第五話 エルヴィンとアリエンとティーモ大臣の閑話休題2
「まじありえんけどな!」
なるほど。一理ある。今まで俺は、お偉いさんの病気を治してきた。それが邪魔になったとしたら……辞めてもらうしかないのかもしれないな。
「ふむ。アリエンさん、『未完草』の他に、『使い物にならない材料』ってあるかな?」
「はぁ? あるけど、そんなものどうするんだ?」
「ちょっとな!」
アリエンは肩をすくめると奥に消えた。
アリエンが、奥から木の箱を持ってきて、よいしょとエルヴィンの前に置いた。ビンに入った材料が十個くらい入っている。アリエンは手を払いながら、材料を見下ろしている。
「これが、使い物にならない材料だ。普通に使ったんじゃ使い物にならないってことだけど……なんか、まじありえんけど、エルヴィンの考えが分かってきた気がする」
エルヴィンとアリエンはニヤリと顔を見合わせて笑った。
★ ★ ★
ドロップ宮殿を出て馬車に乗ろうとしていると、後ろから声がかかった。
「こんにちは、エルヴィンさん……」
「ああ、どうも。ティーモ大臣」
エルヴィンはアリエンから貰った使い物にならない材料を抱えて、振り返った。
ティーモ大臣はヒールの高いブーツで舗装された道を歩いてくる。
「『美容薬』は完成しましたか? 天才調合師のエルヴィンさんならできると思っていますが……」
エルヴィンは上空に視線を走らせた。綿雲がふわふわしているのが目に留まる。
「困りましたね~。訊くところによると『未完草』はどれも未完成になってしまうっていう薬草らしいじゃないですか~。私では無理かも――」
ちらりとエルヴィンはティーモ大臣の方に視線を戻した。ティーモ大臣は珍しく口元に笑みを浮かべていた。彼女の計算通り……なのか?
「天才調合師のエルヴィンさんならできるはずです……」
「断ったらどうなりますか?」
「王室付きの調合師を辞めて頂きます……」
ティーモ大臣は薄らと笑っていた。
俺を買ってくれているのか。それとも、陥れようとしているのか。
「そうですか~。困ったな……」
とは言いつつ、特に困ってはいないが。
「お客さん、乗らないのかい?」
馬車の御者さんがイライラしたように訊いてきた。
「おっと、乗ります乗ります! では、研究があるので失礼します!」
エルヴィンは、そのまま馬車に乗り込んだ。馬車の窓からティーモ大臣を探したが、すでに人込みの中に紛れて彼女の姿は無くなっていた。




