第四話 エルヴィンとアリエンとティーモ大臣の閑話休題
ドロップ宮殿には馬車で二時間だった。エルヴィンは、一番東棟の別館に来ていた。保管庫には明かりが灯っている。エルヴィンは、そっと保管庫のドアを開けた。
「アリエンさん~」
控えめに尋ねると、奥からアリエンが歩いてきた。十三歳ぐらいの少年だ。
「ああ、なんだ、エルヴィンか……」
「フッ……芽々のほうが良かったか?」
つい、からかってしまった。案の定、アリエンは真っ赤になって怒っている。
「何の用だよ! 僕はまじありえんほど忙しいんだけど!」
「ちょっと訊きたいことがあってな」
エルヴィンは、並んでいる薬棚を見渡した。珍しい材料や高価な材料が所狭しとビンに入れられて保管されてある。半眼になったアリエンは腕組みをして、そんなエルヴィンを斜に見ている。
「フン。天才調合師のエルヴィンが僕に訊きたいことってあるのか?」
おっと、嫌味が返ってきたか。
「実は、昨日、失敗作の魔法薬を飲んで、ヤバかったんだ」
「はぁ? まじありえんな!」
アリエンは、プッと吹き出して笑い始めた。天才調合師の名折れだと言わんばかりだ。エルヴィンはアリエンにも一目置かれている存在なので尚更だろう。
「芽々が薬草入りのチョコレートを食べさせてくれなかったら本当にヤバかった」
エルヴィンが更に言うと、アリエンは大笑いし始めた。
「ああ、僕も食べたけど、あれは下剤よりもひどかったな。食べた物まで全部急降下だったからな」
アリエンさんも被害者だったのか……。芽々、恐るべし……。
エルヴィンは本題に入ることにした。
「昨日作った魔法薬が失敗だったのは、『未完草』を使ったせいかもしれないって芽々は言っていたけど」
アリエンは「はぁ!?」と素っ頓狂な声を出した。
「よりによって『未完草』を使ったのか!? まじありえん!」
アリエンは頭を振っている。
「えっ? 『未完草』ってなんかまずいのか? ある大臣がそれを使って『美容薬』を作るようにと依頼が入ったんだが……」
アリエンは納得したように頷いている。
「ははぁ、こないだティーモ大臣が来て、保管庫の『未完草』を大量に持って行ったのはそれでなのか」
やはり、ティーモ大臣なのか。
「まじありえんな! 『未完草』っていうのは、作った薬が全部『未完成』になってしまうっていう、毒にも薬にもならない薬草のことだぞ!」
「えっ!? 作ったものが『未完成』に!?」
エルヴィンはギョッとなった。そんな薬草があるなんて信じられなかった。やはり、他国の薬草は奥が深い。やはり、昨日失敗したのは、エルヴィンのせいではなかったらしい。未完成だから、失敗でも成功でもないという使い物にならないモノにしかならなかったのだろう。
「それを使って『美容薬』なんてできっこない! まじありえん!」
アリエンにまでバッサリと切って捨てられるなんて、箸にも棒にもかからないトンデモナイ薬草らしい。
「じゃあなんでこんな『未完草』なんてものを材料に指名してきたんだ?」
「天才調合師だからじゃないか? そうじゃなかったら……」
「そうじゃなかったら?」
「依頼者が、エルヴィンを陥れるためにそうしたとか……?」
「えっ!?」




