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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二部◆第二章】★*☆*★・・・・・・・★
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第一話 バレンタインの序章

 バレンタインが終わった数日後、烏羽玉先生のホログラムがエルヴィンラボラトリーに来店した。どことなく烏羽玉先生は覇気がなく、幽霊のようにふわふわしている。


「どうしたの? 烏羽玉先生?」

『いや、この間、バレンタインだったから……』


 烏羽玉先生はしゅんとして俯いてしまった。


「はい、烏羽玉先生」


 芽々はラッピングしたチョコを渡した。赤い包装紙と青いリボンの手のひらサイズのチョコだ。


『おお~ッ!? これは、もしかして芽々さんのチョコレートッッッ!?』


 烏羽玉先生は驚喜して、ホログラムの手でそれを受け取った。チョコレートもホログラム化して、ちゃんと烏羽玉先生の元に渡ったようだ。


「みんなにもあげたから、烏羽玉先生にもあげるね」

『なんだ、エルヴィンにあげたのは義理チョコだったんですね~!』


 烏羽玉先生は芽々のチョコレートに頬擦りしている。

 そんなに嬉しいのか~。烏羽玉先生だったらモテると思うのになぁ。


「今回は、全部手作りしてみたんだ!」

『すごいじゃないですか! 芽々さんの手作りなんてシビレます!』


 烏羽玉先生はテンションが高い。こんなに喜んでくれるなんて作ってよかったなぁ!


「実はね! 健康にいいと思ってお店で余った薬草を混ぜてみたの!」

『へ、へぇ~……? 薬草を……?』


 烏羽玉先生の額から汗が流れている。

 得体のしれない物を見るような目でチョコレートの箱を見下ろしている。


「みんな、お通じがものすごくよくなったって言ってたよ! 大成功だね!」

『それって、遠回しに下したってことじゃ……明らかに芽々さんに気を使ってますよね……』


「えっ? なんか言った?」

『いや! この間、謎の女にまた会ったんですよね!』


 烏羽玉先生は見事なタイミングで話をすり替えた。流石、いつも患者さんの話を巧みな話術で聞いているだけはある。


 バレンタインの日に、芽々はエルヴィンにラボラトリーの前でチョコをあげていた。それを烏羽玉先生は目撃していたらしい。


『芽々さんがエルヴィンにチョコをあげている!? 私より私の作ったキャラの方が!?』

『烏羽玉ァ! もしかして、振られたのかァ!』


 そこに現れたのは、謎の女だった。

 烏羽玉先生が傷心の所を嬉しそうに叫んでいた。

 通りすがりの人が、ニヤニヤしながら二人を見ていたという。烏羽玉先生は羞恥心からムッとして言い返したらしい。


『べ、別に芽々さんの事なんか好きじゃありません! こうなったら、プロットを書き直そうか……でも、芽々さんの悲しむ顔は……』

『仕方ないなぁ! 義理だけど、私がチョコをやるよ!』


 お? 謎の女は烏羽玉先生を敵視しているわけじゃないのかな?

 しかし、烏羽玉先生はそのチョコレートを受け取らなかったという。

 確かに、謎の女の得体のしれないチョコなんて、何が入っているか分からないもんな! 私は薬草をたんまり入れたけどな!


『私は、チョコより、芽々さんを異世界で楽しませたいんです……!』

『よし! 私が烏羽玉の為に特別なプロットを書いてやんよ!』

『は、はぁ?』

『そして、私のプロットで芽々さんを荒波のように翻弄してやんよ! お楽しみにしていてね~!』


 そう言い残して、謎の女は嬉しそうに帰って行った。


『な、何だったんでしょう……?』


 後には呆然とした烏羽玉先生が取り残されたという……。


『なので、芽々さんは、くれぐれも身辺に気を付けてくださいね!』

「うん、分かった。それで、チョコはいつ食べてくれるの?」

『えっ!?』


 芽々がニッコリ笑うと、烏羽玉先生の額から汗がだらだら流れた。

 今日はそんなに暑いかな? 暖房も普通だし、ましてや冬なのにな。


『か、帰ってゆっくり食べますね!』

「あっ、逃げ腐った!」


★ ★ ★


 ドロップ宮殿の西の棟はどこか静寂が漂っていた。

 静かな西の棟のある部屋にクリストファー王子が訪れていた。


「クリストファー様……」


 お付きの者は、どこか辛そうだった。看病ばかりしているせいかもしれない。


「兄上の病状は良くならないのか?」

「は、はい」


 今日ここに来たのは、恋人に会いに来たわけではない。病に倒れた兄を見舞いに来たのだ。


「オーガスト様を快復させるには、とても珍しい薬草が必要らしくて……」


 オーガスト王子は危篤状態だった。延命の薬で生命を長引かせているに過ぎない。オーガスト王子がこうなったのには理由がある。


「あの女のせいだ……! けしからん……!」


 クリストファー王子は苦々しく呟いた。

 オーガスト王子があの女の婚約を断った途端にこうなってしまったのだ。


「ま、まだ、あの方のせいと決まったわけでは……!」


 あの女を庇うような弁護など聞きたくなかった。

 クリストファー王子は兄の顔をそっとなでると、上体を起こした。


「……また、兄上の様子を見に来よう。では、失礼する」


 そして、クリストファー王子はオーガスト王子の部屋を後にした。

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