第十話 赤ほっぺ病沈静化と謎の女大臣
あれから、二日が経過した。芽々は、『赤ほっぺ病』の材料を貰いにドロップ宮殿を訪れていた。保管庫へと続く廊下の窓は今日も開いていて、涼しい風が入ってくる。向こうから大臣の服を着た男が歩いてきた。手には書類を持っていて、めくりながら廊下を歩いていた。
「アレ? パトリオット大臣?」
「ああ、芽々さんか!」
パトリオット大臣は書面から顔を上げると、愛想良く微笑んでくれた。
相変わらず狐顔ではあるが、それでも美形なのが窺える。
今日もカッチリとした大臣の服を着こなしている。
「あれからどうなりました?」
パトリオット大臣は、さらりと前に流れた茶髪を掻き上げた。
「フォルティア王国との交渉は上手くいったよ。王妃様のご病気も快復された」
「本当ですか!?」
パトリオット大臣は「ああ」と相槌を打った。
「やはりフォルティア王国の国民は『ネコ耳感染症』に悩んでいたらしい。調合レシピを条件に持ち出すと、二つ返事で『赤ほっぺ病』了承してくれて、材料を輸入できることになった」
改めて、パトリオット大臣は芽々をしみじみと見つめてきた。
「芽々さんのお蔭だな」
「今回はたまたまですよ~」
照れるじゃないか~。芽々は良い気分で頭を掻いていた。
「そのお礼と言っては何だが、保管庫に『赤ほっぺ病』の特効薬の材料が大量に入ってきている。好きなだけ持って行って良いよ」
「ありがとうございます!」
タダでゲットだ! なんだ、パトリオット大臣って良い人やないか~!
今回も、エルヴィンに魔法薬を作ってもらって、滅茶苦茶大儲けするぞ!
芽々は、パトリオット大臣と別れると、保管庫のドアをノックして開けた。
「ああ、芽々か」
アリエンがこちらに気づいた。
どうやら、エルヴィンの『成長促進剤』は成功したようで、アリエンは可愛い男の子から、美少年のままだった。アリエンが王妃様の部屋を訪れたら、快く許してくれたという。なんとなく、許してしまいたくなる気持ち分かる気がするわ。
「アリエンさん、お久しぶり~」
「まじありえんくらい、芽々には感謝しまくりだ」
今までアリエンは芽々の事を邪険にしていたのに親友のような空気だ。弟のようで可愛いぞ。
「不問になってよかったね! でも、調合レシピを悪用しなくても今度から軽率なことは止めといた方が良いよ」
アリエンは吹き出して笑い始めた。
「芽々がそれを言うのか。まじありえん!」
あ、アレ? 私のイメージってそんなにうっかり屋なのか?
「まあ、また、相談に乗ってやるよ! まじありえん待遇だけどな!」
「やった!」
アリエンは、上機嫌だった。
成長促進剤の効果か、芽々が頑張ったお礼なのかは分からないけれど。
でも、アリエンさんが協力してくれたら、鬼に金棒だ。
「ありがとう! で、『赤ほっぺ病』の特効薬の材料はあるかな?」
★ ★ ★
芽々は大きな袋に入った材料を持って帰ろうと、一生懸命抱えて廊下を歩いていた。
実を言うと、大きな袋が邪魔で前が見えてない。でも、持ってみると大体の感覚で歩けるもんだ。実を言うと中身は干した薬草なので意外と軽い。でも、貰いすぎたようで大袋から溢れている薬草が歩くたびに上下に揺れる。
「うわっ!?」
「おっと!」
案の定、誰かとぶつかってしまった。薬草が零れ落ちてしまった。だが、その誰かが拾って上に積み上げてくれた。
「大丈夫ですか? 芽々さん……」
「あ、はい、大丈夫です!」
美しい女の人だと思った。彼女は大臣クラスのスーツを着ている。
長いストレートの金髪に青い目は知的で静かなイメージだ。
しかし、彼女に何秒間か見つめられて、芽々は固まった。
「では。お気をつけて……」
「ど、どうも~」
芽々から視線を外すと見知らぬ彼女はその場から立ち去った。
アレ……?
大袋を抱えてよたよたしながら芽々は振り返った。
「アレ……? さっきの人、何で私の名前を……?」
そんなことわかるはずもない。芽々は首を傾げながら、ドロップ宮殿を後にした。
★ ★ ★
お客さんの列がエルヴィンラボラトリーから途切れることがない。赤ほっぺ病の特効薬を発売したら、売れに売れたのだ。エルヴィンラボラトリーは今日も大繁盛だった。
『いやぁ、やはり私と芽々さんがいたら、魔法薬は完璧に作れてしまうのですよ~! 謎の女の陰謀なんて大したことないですね~! わーはははは!』
事件がひと段落してからやってきた烏羽玉先生はそう言って大笑いしていた。
「今回は烏羽玉先生は何もしてないだろ……!」
今回は、エルヴィンとアリエンとクルーエル大臣のお蔭と、自力で何とかした私と、交渉を頑張ったクリストファー王子とパトリオット大臣のお蔭なんだ!
芽々は商売の邪魔なので、そっとはたきで烏羽玉先生のホログラムを追い出そうとした。
『あっ、そ、そんな~! 芽々さ~ん!』
けれど、烏羽玉先生はそんなことでめげるはずもない。
「こら、烏羽玉! また用もないのに来たのか!」
『用がなくちゃ来たらダメなんですか~? 私は芽々さんに用がなくても会いたいんですよ~』
「芽々は会いたくないと言ってる!」
『そんなことありません! 芽々さんと私の仲ですから!』
エルヴィンと烏羽玉先生の口喧嘩が始まった。
そして、いつもの賑やかな空気に包まれるのだった。
◆◇◆◇◆ 第二部第一章完結! 第二部第二章に続きます! ◆◇◆◇◆




