第九話 芽々の魔法薬の駆け引き
芽々は、本題に入った。
「実は、アリエンさんの『成長促進剤』を作る時に『黒銀人参』と『アマアマ茸』を使ったんですが、その中に病原菌が付着していて、アリエンさんは『ネコ耳感染症』にかかってしまいました」
クリストファー王子は心配そうなお顔になった。
やはりクリストファー王子はお優しい方だ。
「それは大変だな? で、それがフォルティア王国と何の関係が?」
「クルーエル大臣の話によると、『黒銀人参』と『アマアマ茸』は『フォルティア王国』から輸入した材料だという話でした」
「……だからなんだというのか?」
話が見えてこないのか、横で聞いていたパトリオット大臣が野次ってきた。
「パトリオット!」
「申し訳ございません……」
パトリオット大臣はふてくされて、押し黙った。
「そうか。その材料はフォルティア王国からやっと輸入した物だ。裏を返すとそれしか輸入できてない」
「そうですか! ますます私の考えの信憑性が高くなってきた気がします!」
「……どういうことかな?」
「材料の中に『病原菌』が付着していました。それは、もしかするとフォルティア王国では『ネコ耳感染症』が『流行っている』からではないでしょうか?」
「な、何だって?」
二人は度肝を抜かれたようであんぐりとなった。しかしすぐにその開いた口を閉じて、考え込むように芽々の話に集中し始めた。
「もし、『ネコ耳感染症』の特効薬に困っているのなら、『無窮の森』では材料が『手に入らない』のか、特効薬の『作り方が分からない』のか。でも、ファーグランディアの『不磨の森』では簡単に材料が『手に入る』んですよ!」
「なるほど! それは取り引きに使えるな! もし、不磨の森でしか手に入らなければ、それは好カードになる!」
クリストファー王子とパトリオット大臣の心をつかんだらしい。芽々はこっそりガッツポーズした。
「実は、アリエンさんは王妃様を怒らせてしまって魔法薬管理師の資格を没収されかかってます」
「な、なんだって!? アリエンが!?」
芽々がとんでもない事を告白したので、クリストファー王子とパトリオット大臣は唖然となっている。
「誤解してほしくないのは、アリエンさんは『真逆の』魔法薬を研究するために調合レシピを持ち出しただけなのです……それで、クリストファー様、私と取り引きしませんか?」
「な、なんだって……?」
クリストファー王子は完璧に芽々に気圧されていた。
そして、二人の口から咎める言葉もすぐには出てこなかった。だから、芽々はすぐにトートバッグからノートを取り出して続けた。
「ここに、私の師匠のエルヴィンの作った『ネコ耳感染症の特効薬の調合レシピ』があります。エルヴィンの話だとまだ開発されてない魔法薬だそうです。だから、この調合レシピをカードに取り引きすれば、『赤ほっぺ病』の材料も易々と手に入るかもしれませんよ……?」
驚愕のあまり、クリストファー王子とパトリオット大臣の目は大きく見開いた。
「っ!?」
な、なんか、パトリオット大臣が細い目を開いたら滅茶苦茶イケメンなんですけど!
どうやら、意外と使える情報だったようだ。二人とも芽々の取り引きに満足したらしい。
「分かった! 取引成立だ! アリエンの事は不問にしよう!」
と、クリストファー王子は即答した。
「えっ、ホントですか!?」
「ああ、男に二言はない。アリエンは悪事を働いたわけではないのだろう?」
「はい、勿論です!」
芽々はクリストファー王子と顔を見合わせて笑った。
「実は、王妃様とも同じ約束をしました……!」
「芽々……!」
イタズラをした子供のように告白する芽々に、クリストファー王子は苦笑している。
「パトリオット、すぐに交渉の準備だ!」
クリストファー王子は闘志を燃やして足早に部屋を出て行った。近衛兵がクリストファー王子の後を追っていく。
パトリオット大臣も、先ほどの不機嫌はどこへやらで、彼は声を立てて笑っていた。
「芽々さん、私は君を侮っていたようだ」
「そ、それはどうも~!」
ほとんど、エルヴィンとアリエンとクルーエル大臣のお蔭だけれども。
「ますます、君が欲しくなった」
「は、はぁ?」
な、何を言い出すんだ!? この人は!?
「誤解しないでくれ。是非ともクリストファー様のお傍で政治を助けてほしいと思っただけだよ」
「えっ? さっきは、女が政治に参加するなって言ったのに?」
「まあそうなんだが……君は特別かな……?」
「……?」
さきほどと態度が百八十度違う……? それに、どういう意味だ……?
芽々は、再び考え込んだ。
パトリオット大臣は、そんな芽々を見て狐のように笑みを深くするのだった。




