第六話 謎の調合レシピの正体
芽々たちはエルヴィンラボラトリーに帰ってきた。アリエンは椅子に座ってぐったりしている。エルヴィンがペンを走らせてメモに走り書きをした。メモを切り取って、芽々に手渡してきた。
「芽々、これを調合してくれ」
芽々は、メモを確認する。達筆な字で調合レシピが書かれてあった。
『『ネコ耳感染症の特効薬』は『ビオビオ草五〇グラ』に『フェルフェル草五〇グラ』に『ミンミン草五〇グラ』で『成功率百パーセント』』
「分かった!」
芽々は早速材料を量りにかけ始めた。
「『ビオビオ草五〇グラ』に……『フェルフェル草五〇グラ』に……『ミンミン草五〇グラ』っと!」
ってこれって、ビオフ〇ルミン……!?
だれだ、こんな言葉遊び考えたやつは!? 烏羽玉先生か……?
元の世界に思いを馳せると、烏羽玉先生はくしゃみをしていた。
魔法機の手形に手を合わせている間に、魔法機が伸縮してポンと音を立てた。
「できた! 成功したよ~!」
芽々はグラスに注いで、アリエンに手渡した。青汁のようなカンジの液体に仕上がっている。
「アリエンさん、どうぞ?」
子供の口には苦いかもしれないけど……と言ったら、アリエンさんは怒るかもしれないので、芽々は黙っていた。
「ううっ……まず! まじありえん!」
アリエンさんは、ピーマンを食べるような顔で魔法薬を飲み干した。
すると、ピョッと生えていたネコ耳が頭の中に引っ込んで綺麗に消滅した。
「おおお! な、治ったぞ!」
アリエンはまじありえんくらい大喜びしている。
「これで、僕は無敵だ! これでネコ耳が生えていると馬鹿にされることもない!」
「よかったな~」
「一件落着だね」
アリエンさんが悦に入ったように大笑いしているので、芽々とエルヴィンも釣られるようにして笑った。
その喜びを奪うように、ドアチャイムの音が鳴った。
「じゃまするぞ」
「あれ? フームス隊長?」
入ってきたのは、ファーグランディア王国の警察のような組織ガーディアンのフームス隊長とその部下三人だ。
フームス隊長は相変わらずへビースモーカーらしい。タバコを吸いながら入ってきたので、もわっと煙が部屋の中にわだかまった。
喜びに沸いていた三人の笑い顔が固まった。
「今日はどうされたんですか? 芽々がまた何か?」
「わ、私は何もしてないよ!」
た、多分、何もしてないはずだ……と思う。自信がないのは、私が無意識のうちに何かしでかしているかもしれないからだ。
「今日は、魔法薬管理師のアリエンに用があってきた」
「アリエンさんに!?」
芽々は、ギョッとした。一番何もしなさそうなアリエンが名指しされたからだ。エルヴィンの視線がアリエンに集中する。だから、成長したアリエンを見ても、フームス隊長は驚くこともなく、本人だと悟ったらしい。
「アリエン。門外不出の『若返り薬』のレシピを持ち出したな?」
「えっ? 『若返り薬』って?」
聞いたことない魔法薬だけど、嫌な予感がするのはなんでだ!?
「僕が、芽々に教えた魔法薬の調合レシピの事だ」
アリエンの補足した答えに芽々は驚愕した。
「ええっ!? アレって、そんなに大層なレシピだったの!?」
「ああ、王妃様の門外不出の『若返り薬』だよ。まじありえんけど」
アリエンが気落ちしたように告白した。
「ええっ!? よりによって王妃様の!?」
フームス隊長は頷いて、美味しそうに煙草をふかした。
「王妃様はお怒りだ。アリエンの魔法薬管理師の資格を剥奪すると仰られている」
「まあ、仕方ないな……」
アリエンは簡単に肩を落とした。
「ええっ!? 諦めちゃうの!?」
「間違った判断をした僕の責任だろ。まじありえんけど仕方ない」
い、いや。アレは、私がアリエンさんを子供だって言って怒らせたからのような……。
芽々の罪悪感が募りに募っていく。
「ふ、フームス隊長!」
悩んだ挙句、芽々は端を発した。フームス隊長はマイペースにタバコをふかしていたが、チラリとこちらを見た。
「私を王妃様の元に連れて行ってください!」
「えっ!?」
アリエンが驚いて瞳を揺らしている。
「私が何とかしてくる!」
芽々はついに腹をくくった。王妃様とは知らない仲じゃない。なんとか、許してもらえるように説得してくるのだ。
「俺も付いて行――」
エルヴィンが続けようとしたとき、ドアチャイムの音がせわしなくなった。
お客さんだ。
確か、『CLOSE』の札をかけていたんだけど。
「赤ほっぺ病の特効薬をください!」
「私も!」
「俺も!」
お客さんは必死だ。
この様子だとエルヴィンじゃないと対処しきれないだろう。
「仕方ない。俺は店番だな。アリエンさんも手伝ってくれ」
「……資格を没収されたらここで雇ってもらおうかな。まじありえんけど」
アリエンはらしくなく、弱気なことを言っている。
「ダメだよ! 私が何とかしてくるから待ってて!」
フームス隊長たちと同じ馬車に乗車して、芽々はドロップ宮殿に向かったのだった。




