第五話 アリエンと真逆の調合レシピ3
ネコ耳が生えて可愛さが増したアリエンを、芽々とエルヴィンは呆然自失で見守っていた。
アリエンは穴が飽きそうなほど、姿見に映った自分の姿をガン見している。
姿見には、青ざめている十三歳ぐらいのアリエンが映っている。
芽々はハッとした。
「もしかして、エルヴィン、調合失敗したんじゃ!?」
猿も木から落ちるっていう、アレなのか!?
アリエンのネコ耳が芽々の声を敏感に聞き取って、ピクピクと動いている。
「えっ、でも、これは失敗作じゃないはずだけど……?」
エルヴィンは暢気そうに言った。
「確かに、タールみたいに黒くないから、失敗作じゃないかもしれないけど……!」
失敗作じゃなかったら、なんで……?
アリエンがふらりと揺らめいた。
「な、なんか、気分が悪いぞ……? 眩暈が……!」
倒れそうになっていたので、芽々がアリエンを支えた。
「エルヴィン! 失敗作じゃなくても、お医者様に見てもらわないとヤバいよ!」
アリエンがハッとしたように顔を上げた。
「ドロップ宮殿の医者はマズイ!」
「な、なんで!?」
「いいから、街の診療所に連れて行け!」
アリエンは必死で芽々に懇願した。アリエンがそう言うなら仕方ない。
エルヴィンに視線を送ると、彼も神妙にうなずいた。
「じゃあ、診療所のガード先生に診てもらおう!」
ドロップ宮殿の外に停まっているタクシー代わりの馬車に飛び乗って、街中にあるガード診療所に向かった。馬車に乗車している間も、アリエンは馬車の揺れのせいか具合が悪そうにしていた。
診療所に着いたのは三十分後の事だ。小さいながらも清潔で明るい診療所だった。
緊急ということで、すぐにガード先生は診てくれた。現在は検査の結果待ちだ。
寝台の上でアリエンは仰向けになっていた。うつろな目は絶望しか見ていない。
「僕は、ずっとこのままなのか……? 芽々に子供だと馬鹿にされた挙句、エルヴィンの失敗作を飲まされて。僕のドロップ宮殿での魔法薬管理師の立場はどうなるんだ……?」
アリエンの発言に芽々は大慌てになった。
「ね、ねえ、どうしよう、エルヴィン!」
「大丈夫だって。だって、これは失敗作じゃないから」
エルヴィンの他人事のような暢気そうな発言に、アリエンは頭に来たのか勢いよく起き上がった。
「じゃあ、何で僕はこんなに気分が悪いんだ!? 頭にこんなものまで生えて!」
あ、アリエンさん、復活した。
「か、可愛いけどな……!」
「っ!?」
芽々が正直な感想を言うと、アリエンは頬を染めた。
けど、すぐに気分が悪そうになって、ベッドに戻って行った。
席を外していたガード先生がカルテを手に戻ってきた。
「分かりました。これは、材料に入っていた病原菌が原因ですね!」
「ハァ!? 材料に病原菌が入っていたの!?」
材料に病原菌なんてまじありえん……!
でも、エルヴィンが失敗したわけじゃなかったのか。
「ええ。これは、食べないと感染しませんがね。『ネコ耳感染症』ですね」
「『ネコ耳感染症』……。可愛い名前だな……」
芽々が半眼でアリエンを振り返った。アリエンは何も言えないようだが。
「『ネコ耳感染症』はネコの耳が頭から生えてきて、気分が悪くなり眩暈がおきるっていう食中毒みたいな病ですね。この病は、特効薬がないと治りません」
「ええっ、特効薬がないと治らないの!?」
「まじありえん……!」
絶望している芽々とアリエンの横で、エルヴィンがお気楽そうな笑みを浮かべた。
「『ネコ耳感染症』か。分かった。アリエンさんを俺のラボラトリーに連れて行って、魔法薬を調合して飲ませたらすぐに治るだろ」
「ええっ!? エルヴィンって『ネコ耳感染症』の魔法薬ってすぐに作れるの!?」
「っ!?」
「もちろん。他の国の病だけど、俺の研究ではできるようになった。それも不磨の森で簡単に手に入る材料で作れるからな」
「流石、エルヴィンだね!」
芽々とエルヴィンはほのぼのと笑い合った。
そのまま、アリエンを元気づけようと振り返るが、寝台の上にアリエンの姿は忽然となくなっていた。
アレ? アリエンさんがいない?
「さ! エルヴィンのラボラトリーに行くぞっ! まじありえんけどなっ!」
アリエンは、さっさと帰る準備をしてドアの前に立っていた。
あ、意外と元気だった。




