第四話 アリエンと真逆の調合レシピ2
翌日、芽々はまたドロップ宮殿の保管庫を訪れていた。
「アリエンさん~」
芽々は保管庫のドアから顔をのぞかせて、魔法薬管理師のアリエンを呼んだ。
保管庫には照明がついている。
薬棚に視線を走らせると、梯子を降りてくる姿を見つけた。
「芽々? また来たのか?」
相変わらず、ダボダボの制服は着ているようだ。
アリエンは怪訝そうに眉を寄せて、こちらに歩いてきた。
一日経つと怒りは収まったようで、アリエンはケロッとしているが。
「エルヴィンが協力してくれるっていうから連れてきたんだけど」
「どうも」
芽々の隣からエルヴィンが顔を出した。
「ふーん」
アリエンがどうでも良さそうな返事をした。
もう喧嘩の原因は忘れてしまったような雰囲気だけど――。
「『黒銀人参』と『アマアマ茸』ってあるかな?」と、エルヴィンが尋ねた。
「……黒人参とアマアマ茸だな?」
アリエンは薬棚を見て回って、二つの大ビンを手に戻ってきた。
そして、ぶっきらぼうにエルヴィンに差し出した。
「ほら。一応何に使うのか提出してくれないとこっちも困るんだけど」
エルヴィンはフッと笑った。
「この魔法薬のレシピと逆の効果の魔法薬を作ればいいんだろ?」
「っ!?……あ、ああ、そうだけど……!?」
エルヴィンがそう説明したことで、ようやくアリエンは昨日の事を思い出したようだ。
「『白銀人参』の逆の効能を持つのは『黒銀人参』で、『カラカラ茸』の逆の効能を持つのは『アマアマ茸』だと思うけど、材料が高価すぎて手に入らないからここに来たわけだ」
「ま、まじで!?」
逆の調合レシピの事はアリエンも知らなかったらしい。歓喜したような表情になっている。ますますこの調合レシピが何なのか、芽々は分からなくなった。
「じゃあ、隣のラボラトリーを借りるからな?」
エルヴィンは軽やかに隣のラボラトリーに歩いて行った。
アリエンは玩具を前にした子供のような顔になっていた。
「まじありえん! まじで逆の効能の魔法薬ができるっていうのか!?」
「エルヴィンは、天才調合師だからね~」
芽々とアリエンが、隣のラボラトリーに入って行くと、エルヴィンの魔法薬はすでに完成していた。
相変わらず、素早いお仕事ですね~。
「ほい、できたぜ?」
「まじありえん……!」
魔法機からビンに移したものをエルヴィンはアリエンに渡した。
アリエンは受けとって、ビンに入った謎の液体を前に喉を鳴らしている。
「でも、この調合レシピと逆の調合レシピって、一体何の?」
「それは……あっ!」
説明しようとしたエルヴィンの横で、アリエンがその魔法薬を一気飲みした。
「あ、アリエンさ……!?」
驚くべきことに、アリエンの身長が伸びて行く。
アリエンの顔つきも、十歳の子供から十三歳ぐらいに変化していく。
アリエンの身体が成長したことで、ダボダボの制服も丁度良くなっている。
「どええええええええええ!?」
「これで、芽々は僕の事を馬鹿に出来ない!」
目の前には、可愛い男の子のアリエンではなく、精悍な顔つきをした十三歳ぐらいの少年が芽々に指を突き付けて笑っていた。
アリエンは、もう少し成長するとかなりのイケメンになるのかもしれない。魔法薬の効果かもしれないが、キラキラとした光を身にまとっていて幻想的だった。
芽々は目の前の光景に呆気にとられていたが、ハッと我に返った。
「ちょっ!? この調合レシピって!?」
「成長促進剤かもしれないな?」
エルヴィンは事もなげに言った。
「えええええ!? そんな魔法みたいな薬ってあるの!?」
いや、魔法薬って言うけど!
「俺も人間の成長促進剤なんて初めて見たけどな」と、エルヴィンは笑っている。
芽々は、変身後のアリエンの姿をガン見した。
まじで、アリエンさんの夢が叶ったのか!? まじありえん……!
「で、でも、アリエンさん、頭から変なものが生えているけど……?」
芽々は、アリエンの頭から三角なものが二つピョッと生えていることに気づいた。
アリエンはバッと頭に手をやった。
「なっ!? これって、まさか、ネコの耳!?」
確かに猫の耳がリアルに動いている。
「確かに、ネコの耳だね」
「あ、ああ、ネコの耳だ」
芽々とエルヴィンは頷いた。
アリエンは部屋にかかっている姿見の前まで駆けた。
鏡を見て、一気にアリエンの表情が青ざめた。
「なんじゃこりゃあああああああああ!?」