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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二部◆第一章】★*☆*★・・・・・・・★
83/102

第一話 特効薬が作れない!?

「はふ……」


 春の温かい気怠い空気に芽々は欠伸をかみ殺した。現在、店内をモップで掃除中だ。


 異世界のファーグランディア王国の王都ファンティアで芽々は師匠のエルヴィンと一緒にエルヴィンラボラトリーを開いていた。


 ラボラトリーは研究室の事だ。魔法薬のお薬を調合して、ラボラトリーと部屋が続いている薬局の店内で販売するのだ。


 今は、開店前だ。朝ご飯を食べたので、開店前にモップで掃除をして、清潔な店内でお客さんを迎えようというわけだ。


 エルヴィンラボラトリーはエルヴィンが手腕を発揮して繁盛しまくっている。王都ファンティア一のラボラトリーと言っても過言じゃない。芽々は、そんな師匠のエルヴィンを想って誇らしくなるのだった。


『芽々さん~!』


 そんな朝にいきなり現れたのが、芽々を異世界に連れてきた張本人の烏羽玉先生だ。


「アレ? どうしたの? 烏羽玉先生?」


 烏羽玉先生。元の世界で病院に行ったときに出会った心療内科の先生で、芽々を自作の異世界に連れてきた創造主でもある。今日も上半身だけのホログラムで登場である。


 整った顔はかなりモテるだろうと推測される。毛糸を解いたような天然パーマの黒髪が一層彼の顔を引き立てている。


『聞いてくださいよ~! また、謎の女が私の前に現れましてね!』


 しかし、彼の性格はかなり問題がある。つまり、残念系のイケメンなのだ。


「またなんかあったの?」


 彼はまた『謎の女』と口論になったらしい。


★ ★ ★


『烏羽玉! 今日こそは私の事を思い出しなさい!』


 いつもの常套句を言ってきた謎の女に、烏羽玉はぞんざいに返事をしたようだ。


『ええ~? 全く私の記憶にはありませんね。記憶の片隅にもありませんね~』

『……!』


 芽々にもサッパリこの女のやりたいことが分からない。

 烏羽玉先生に思い出してほしいらしいが、自分で教えた方が早いんじゃないかとこっそりと思っている。


『というか、貴方は私に何をしてほしいんです?』


 烏羽玉先生は訊きながら、爪にやすりをかけていたらしい。それが、謎の女には怒り心頭に発したようだ。

 謎の女は烏羽玉先生に指を突き付けた。


『土下座をしろ! 私を思い出さなかったことを悔いて謝れ!』

『ハッ、嫌ですね~。というか、思い出したくもないっていうか~』


 な、なんていうか。烏羽玉先生は、完全に謎の女を舐め腐っているな~……。

 案の定、火に油を注ぐ結果になった。


『良いだろう! 烏羽玉! また異世界を書き直して後悔させてやる!』

『ハッ、どう後悔させるって言うんです? 特効薬なら、芽々さんと私がいれば簡単に作れますし?』


 お、おい!? そんな大口を叩いても大丈夫なのか!?


『フッフッフ! じゃあ、その特効薬を作れなくしてやんよ!』

『あっはっは! じゃあ、見事に特効薬を作ってやりますよ~!』


 烏羽玉先生と謎の女はフンと顔を背けた。


『というわけなんですよ~!』


 芽々はのどがカラカラになっていた。

 子供の喧嘩のようだが、恐ろしいことを話している。


「何、煽りに煽っちゃってんの!? もしなんかあったら――」

「コラ、烏羽玉!」


 仁王立ちで登場したのは、芽々の調合師の師匠であるエルヴィンだ。

 エルヴィンは、年は二十歳ほどで、ハチミツ色の髪の毛に、緑色の切れ長の瞳を持っている。背が高くて細マッチョだ。異世界風の研究者の服がとても似合っている。


 怒っているのは、どうやら烏羽玉先生と芽々の会話を聞いたからのようだ。

 烏羽玉先生ともそりが合わないらしく、二人はムッとしたまま睨み合っている。


『なんですか、エルヴィン。相変わらず私よりイケメンでムカつきますね』

「現在流行っている『赤ほっぺ病』の特効薬が作れないのはお前のせいか!」


「赤ほっぺ病って?」


 芽々は、目を瞬きながら訊いた。


「高熱が出たせいでほっぺたが赤くなるっていうウィルス感染症だ。王都ファンティアで流行っているって新聞の朝刊に載ってたぞ!」


 エルヴィンの手には朝刊が畳まれてあった。腕組みした右手に持っている。


「『赤ほっぺ病』は、感染すると高熱が出て特効薬がないと下がらないらしい」


 それは怖い病だな……! 可愛い名前で騙されそうになったぞ……!


『な、なんで、特効薬が作れないんです?』


 烏羽玉先生が頭痛を覚えたように手を額にやっている。

 そ、そうだ。烏羽玉先生の言う通り、問題点はそこだ。

 魔法薬を飲まないと高熱が引かないのに、特効薬が作れなかったら事じゃないか。


「特効薬が作れないのは材料が手に入りにくいからだ。聞くところによるとドロップ宮殿でも手に入りにくい材料らしいぞ」

「な、なんだって~!?」


 それって、ヤバくないか……?

 エルヴィンと烏羽玉先生が話している最中に、ドアチャイムの音が慌ただしげに鳴って、芽々たちは飛び上がった。

 まだ、開店はしてないけど!?

 そう思ったが、時遅し。お客さんが行列を作って入ってきていた。


「赤ほっぺ病の魔法薬をください!」

「家族の高熱が出て困っているんです!」

「私の娘もです!」


 芽々は大慌てになった。


「み、皆さんもしかして、赤ほっぺ病の!? めっちゃ流行ってるやんか~!?」

『むむむ、謎の女め~……! くだらない嫌がらせを~……!』


 烏羽玉先生が歯噛みしている。

 ほ、ほら~! 喧嘩なんて買うから……!


「芽々、ドロップ宮殿に行って魔法薬の材料を貰ってきてくれ!」


 芽々はエルヴィンの指示にハッと我に返った。


「う、うん、分かった!」

「烏羽玉は……」


 エルヴィンは烏羽玉先生にも協力してもらおうと思ったらしい。

 しかし、烏羽玉先生の姿は忽然となくなっていた。


「ああっ、逃げ腐った!」

「逃げるの、早ッッッ!」


 さっさと遁走した元凶に、芽々とエルヴィンは唖然となるのだった。

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