第十五話 クルーエル大臣は敵か味方か
「私が、芽々さんにエルヴィンさんを助けるための条件を出したのだよ」
クルーエル大臣は、飄々として大したことのないような素振りで答えた。
「なんで黙っていたんだ!?」
案の定、エルヴィンは怒った。
「黙っててゴメン! こっちも必死で!」
そんな芽々とエルヴィンに、クリストファー王子とクルーエル大臣は試験官のような顔で笑った。
「本当に毒薬を作ってきたらそれで試験は終了で、解放してやるつもりでいた」
「クルーエル大臣、どういうことですか?」
「芽々とエルヴィンが信用できる人物か、クルーエル大臣は試していたのだ」
私とエルヴィンを試す?
完全にクリストファー王子をクルーエル大臣が騙しているの間違いじゃないのか?
「クルーエル大臣が魔法薬の材料を持ち出して、クリストファー様と国王様の魔法薬を作れなくしたのはどう説明するんですか!? それに荷馬車屋のノーア社長がガーディアンに一掃されたって言ってましたけど、あれを命令したのはクルーエル大臣じゃないんですか? だって、ノーア社長の持っていた特効薬の作り方とクリストファー様や国王様の解毒薬の作り方と同じ物だった。しかも、作ったことがないような珍しい特効薬がです。ということは、命令したのは同一人物と考えてもおかしくない!」
『私は、運送屋の荷馬車屋を経営している。だからか、不磨の森よりもヤバい区域の採取をある人物から命じられた。断り方が悪かったのか一触即発の空気になった。ついにガーディアンに一網打尽にされてしまったわけだ。なんとか、解毒剤の作り方の調合レシピを手に入れたものの、材料が手に入らなくて作れないと来た!』
ノーア社長は確かそう教えてくれた。クルーエル大臣はそんな芽々を褒めるように頷いた。
「そうか! ノーア社長に命令したのはおそらく、レベル大臣だ。レベル大臣はあの材料を持ち出して、クリストファー様の特効薬を作れなくした。だから、私が材料を持ち出したように見せかけて、芽々さんたちに教えたというわけだ」
「まじですか!?」
「信じられないのならノーア社長に聞いてみるといいだろう。命令したのが同一人物だとしたら、答えはノーア社長の口から聞けることだろう。近々ノーア社長は、レベル大臣の罪を問うための証人になってもらう。レベル大臣はこれで終わりだ」
確かに。それがクルーエル大臣なのか、レベル大臣なのか、完全に露呈するだろう。
「証拠を見つけてくれた芽々さんには感謝してもしきれないな!」
「褒めてくださるのは嬉しいのですが。でも、クルーエル大臣が滋養強壮剤をクリストファー様に持って行けと言ったのは? あれは毒薬で、私をはめようとしていたんじゃ?」
「あの、滋養強壮剤には最初から毒の作用を無くしてあった」
「ほ、ホントですか?」
「嘘だと思うなら、アリエンに訊いてみるといいだろう。彼にも工作を頼んでおいたのだからな」
「な、なんだってッッッ!?」
あ、あのアリエンさんがグルなのかッッッ!?
芽々の心境は、今まさにブラックホールの中に吸い込まれそうだった。
「危ない薬草を指示して、食べ合わせの悪い料理を出したのは、恐らくレベル大臣の指示だろうがな。確かめようにも主治医と料理人は口を封じられてしまったが」
「じゃ、じゃあ、エルヴィンに毒を盛ったと言ったのは!?」
「あれは、はなから嘘だ。あんな毒薬なんてあるはずがないだろう? エルヴィン君には毒薬なんて飲ませてない。嘘だと思うなら、材料の残りを調べてみると良い」
もうエルヴィンにばれてしまったから怖いものなしだ。あとで、エルヴィンに調べてもらおう。
「こうでもしなければ、芽々さんは私の事を公にしてややこしくすると思ったんだよ。そうなっては敵わないから、口止めしておいただけだ」
「ええっ!? じゃあ、私は踊らされていたというわけですか!?」
なんか、ドロップ宮殿って怖いところだな……!
「これは、テストだ。信用を置けるものかどうかを試していた。芽々とエルヴィンの正義感と能力を」
「テストですか!? 私をですか!?」
「ああ。エルヴィン君と芽々さんをな。結果は合格。だから、晴れて二人は本当の王室付きの調合師だ!」
「おめでとう! エルヴィン、芽々!」
クリストファー王子とクルーエル大臣が拍手し出すと、お付きの人たちが続いて、あっという間に拍手喝采に包まれた。
しかし、芽々は狐につままれたように素直に喜べなかった。
エルヴィンと顔を見交わして、芽々は苦笑いするのだった。