第七話 特効薬が効かない!? 2
芽々は荷物を抱えて、馬車から降りた。そして、「CLOSE」のプレートのかかったエルヴィンラボラトリーのドアを開けて中に飛び込んだ。
「エルヴィン!」
エルヴィンラボラトリーの店内は、魔法薬のにおいがふんわりと香っている。店内は明るく清潔で、暖房の温もりで満たされている。
「ああ、芽々か……。遅かったな……」
エルヴィンが、奥からゆっくりと現れた。先に夕飯は済ませて、お酒でも飲んでいたのだろうか。ゆったりした空気がエルヴィンを取り巻いている。
しかし、芽々はそれどころじゃない。
「エルヴィン! 大変なの! クルーエル大臣が露出病を発症して!」
「ふーん……」
エルヴィンは面白くなさそうに目の重心を下げた。そして、よたよたとこちらに歩いてくる。
「だから、エルヴィンなら、新しい特効薬を作れるんじゃないかって……えっ!?」
芽々は、お土産まで持たされたことを伝えようとした。
けれど、エルヴィンの胸板が目の前にあった。だから、芽々は吃驚して後ずさりした。
虫取り網に捕まった蝶のように戸惑っている芽々をそのままに、更にエルヴィンは迫ってきた。そして、壁まで芽々を追い詰めるとドンと手を突いた。
「な、何?」
まさか、これがウワサに聞くところの壁ドンじゃ――!?
ど、どうしたんだ、エルヴィン!?
芽々は人が変わったようなエルヴィンを目の当たりにして目を激しく瞬いた。
「芽々は、クルーエル大臣が好きなのか……?」
とろんとした目をして、エルヴィンは言った。
「ハァ? 好きなわけないでしょ! でも、クリストファー様からも頼まれたから!」
なんで、脅してきた相手を好きになることがあるんだ? ありえないだろ!
だが、エルヴィンは面白くなさそうだった。
「じゃあ、芽々はクリストファー様が好きなのか……?」
「なんでそうなるんだ? 別に私はドロップ宮殿なんかに用はないから……ん?」
エルヴィンが芽々の手を取って、チュッと口付けた。
「っ!?」
芽々は総毛立った。唇が『い』のように横に伸びたまま固まった。
「今日は、芽々が滅茶苦茶可愛く見える……」
「うわっ、な、何すんだ!?」
吃驚もいいところだった。エルヴィンが頬にキスを落としてきたからだ。
「今日は暑いな……」
「……!?」
エルヴィンの頬から汗がしたたり落ちた。エルヴィンは自分のシャツのボタンをもどかしそうに外した。
芽々は、ハッと我に返った。
も、もしかして、この人――露出病にかかってる!?
エルヴィンは、のぼせたような熱い目を細めてニヤリと笑った。
「ベッドに行こう?」
「ええええ!?」
そのまま、芽々をお姫様抱っこして自分の部屋に向かいだした。
エルヴィンの部屋に連れてこられると、芽々はベットの上にポイッと落とされた。
「ちょ、ちょっと~~~~ッッッ!?」
お代官様に着物の帯をあ~れ~されているような気分だ。
冗談はともかく、誰か助けろやあああああ!
「いい加減にしなさい!」
烏羽玉先生が、創造主的な見えない力でエルヴィンを昏倒させた。
自分のベッドで大人しくなったエルヴィンは、目を閉じたまま荒い呼吸を繰り返している。
「烏羽玉先生~! た、助かった~!」
芽々は床にへたり込んだ。
ホログラムの烏羽玉先生は、震えながらエルヴィンを見下ろしていた。
「私が作ったキャラながら、私の願望を遂げようとするだなんて恐ろしい……!」
「ん? なんか言った?」
芽々は、烏羽玉先生が呟いた言葉を聞き取れずに聞き返していた。
烏羽玉先生は咳払いした。
「いえ、あの謎の女はどこまでも恐ろしいと……」
「だよね! クルーエル大臣も魔法薬が効かないし、びっくりするね!」
頼ろうとしたエルヴィンまでもが、露出病にかかるなんて……!
途方に暮れていると、店の方からドアチャイムの音が慌てたように鳴った。そして、足音が複数入ってきた気配がした。
「芽々さん~!」
店の方から狼狽えた声が聞こえてきた。
芽々は、断るために店の方まで早足で出て行った。
「今日はもう、閉店なんですけど……!」
けれど、そこにいたのは、フームス隊長の腕を肩に回して抱えている二人の部下だった。
フームス隊長はぐてんとして、頬から汗を滴らせている。
「助けてください! フームス隊長が露出病に……!」
「ええっ!?」
クルーエル大臣に、エルヴィンに、フームス隊長も!?
もしかして、あの露出病の特効薬が効いてない……?
「どうしたらいいですか、芽々さん~!」
部下たちは泣きそうになっている。
だからって、うちに連れてくんな……! フームス隊長にも襲われたらどうすんだ……!
そうも言えず、芽々はエルヴィンが眠っているベッドの横の床に布団を敷いた。そして、フームス隊長を寝かせるように指示した。
でも、特効薬が効かないだなんて、どうすればいいんだ!?
芽々は五里霧中な問題に頭を抱えるのだった。




