第六話 特効薬が効かない!?
そうして、芽々はアリエンと別れると、クルーエル大臣の部屋に入って行った。
「クルーエル大臣、失礼します」
「芽々さんか……」
クルーエル大臣の熱っぽい声が迎えてくれた。
ん? 熱っぽい声……?
「クルーエル大臣?」
芽々が近寄っていくと、クルーエル大臣の後姿があった。衣擦れの音がしたかと思うと、何故かクルーエル大臣はネクタイを外していた。
「え゛?」
嫌な予感が襲ってきた。
な、なんで、クルーエル大臣はネクタイを外しているの!?
芽々は、その場で硬直した。
クルーエル大臣は、そのままスーツを脱ぎ落としてシャツの胸を肌蹴た。
そうして、クルーエル大臣は芽々を振り返って髪を掻き上げた。クルーエル大臣の氷のような瞳が融けそうに熱い。
「芽々さん、良く来てくれたね……」
烏羽玉先生の言葉が急に脳裏に蘇った。
『芽々さんも十八禁にならないように気を付けてくださいね?』
ヤバい襲われる……!
芽々は後ずさりして逃げようと思った。
脱ぎ落したスーツを革靴で跨いで、こちらに来ようとしている。
クルーエル大臣の息遣いが妙に熱っぽい。
うん、逃げよう! って、あれ……?
でも、私が流感で倒れる前の浮いた言葉遣いに似ているような?
それに気づいた途端彼に違和感を覚えた。クルーエル大臣の額から大量に汗が流れ落ちていたからだ。
芽々が困惑しているそのうちに、クルーエル大臣は芽々の前まで来ていた。
「芽々さん……」
これってもしかして――。芽々の動揺と心拍数が一層増した。
「今日は……暑い……!」
これってもしかして、――露出病!?
そうして、クルーエル大臣は芽々に体重を預けたまま、倒れてしまった。
た……! 大変だ……!
「だ、誰か! クルーエル大臣が!」
大声を張り上げると、お付きの者たちが飛んできた。
すぐに、クルーエル大臣はベッドに運ばれた。芽々は衝撃の現場を目撃してしまったせいか、その場から動けなかった。
クルーエル大臣は、全然不死身じゃないじゃないか!
けれど、おかしなことに気がついてしまった。
露出病の特効薬はすでに国民全員に配られていて、クルーエル大臣も飲んでいるはずだ。
何故、クルーエル大臣は露出病にかかった?
「あの! クルーエル大臣は、露出病の特効薬はお飲みになったんですか!?」
芽々は、お付きの一人に確認した。お付きの者は、力強く頷いた。
「はい、勿論です! すぐに、クルーエル様は特効薬をお飲みになりました。でも……」
な、なんか、歯切れが悪いな?
芽々は、不審に思って首を傾げた。
「でもって……?」
「自分にはこの薬は効かないだろうと仰っていました」
ええっ!? 薬が効かない!?
「ど、どういうことですか!? 薬が効かないって!?」
「わ、分かりません……! でも、クルーエル様は特効薬を確実にお飲みになったし、そう仰っていたことも事実です!」
それで、自分が飲んでも良い特効薬を私に飲ませたのか……!
古いからでもなく、すり替えられたのでもないとしたら、なぜ効かないんだろう?
クルーエル大臣のベッドに近付いたが、今のクルーエル大臣は何も話せないらしく、高熱にうなされていて無理だった。
「露出病の特効薬が効かないだと!?」
主治医の大声が聞こえてきた。
主治医は特効薬を飲ませたらしい。だが、お付きの人の言葉を裏付けるように、特効薬が何故か効かないらしかった。芽々は現場を目の当たりにして狼狽えた。
もっと早く――。
発症する前にもっと早く、私に言ってくれればよかったのに――!
「芽々様! どうか、クルーエル様をお救いください!」
「お願いします!」「どうか、どうか!」「お願いいたします!」
芽々はお付きの人全員に懇願されて、引き受けないと帰れない雰囲気になった。
「わ、分かりました。エルヴィンに協力してもらいます……!」
その時、クルーエル大臣の部屋にクリストファー王子が飛び込んできた。
「クルーエル大臣が倒れたというのは本当なのか!?」
「は、はい、左様でございます!」
お付きの者が慌てて答えている。
情報が早いな!
「芽々! クルーエル大臣を必ず治してくれ!」
「えっ……?」
「でないと、私はレベル大臣に権力を奪われてしまう! 必ず、治してくれ! 頼む!」
芽々はクリストファー王子に手を取られてとんでもない迫力で言い募られた。
「は、はい! わ、分かりました!」
右向け右の迫力で、ついに魔法薬を作ると約束してしまった。メロメロティの果実の手土産まで持たされて、芽々は王女様のようにお付きの人たちに見送られた。
「はぁ……!」
特効薬が効かないのに、私に何ができるって言うんだ?
でも、天才調合師のエルヴィンならなんとかしてくれるかもしれない……!
馬車の御者に頼んで、芽々はエルヴィンラボラトリーへの帰路を急いだのだった。