第三話 クルーエル大臣の秘密2
「どうする? 飲むか?」
クルーエル大臣は悪役さながらの笑みを浮かべて言った。
芽々は躊躇していたが、エルヴィンの顔が思い浮かんだ。これさえ飲んだら、クルーエルの魔の手からエルヴィンは助かるのだ。
芽々は深呼吸した。
「分かりました!」
クルーエル大臣は驚いて瞳を揺らしていた。
動揺しているクルーエル大臣の手から、芽々は魔法薬をひったくった。そして、ふたを開けて一気に飲み干した。
しかし、芽々の世界がぐにゃりと歪むことも、身体のが熱くなるということもなかった。
芽々は、二本の足でしっかりとそこに立っている。
「……? これは、ヤバい薬ではないんですか……?」
クルーエル大臣は固まっていたが、堰を切ったように笑い出した。
な、何だ!?
「今言ったことは冗談だと言おうとしたんだが、芽々さんの方が早かったようだ! 君の根性は大したもんだな!」
は、ハァ? これは、ただの水だったのか? でも、薬っぽい味だったけどな。
魔法薬のラベルを見た。ラベルは朽ちて文字がにじんでいて読めない。相当古い魔法薬だったらしい。って、大丈夫なのか。古い薬なんて飲んじゃいけないんだぞ。
目を細めてクルーエル大臣に不満を訴えるが、クルーエル大臣は笑顔だった。
「それは、魔法薬だよ。それを飲んだら、ある病にかからない」
「えっ!?」
ウソだろ!? クルーエル大臣は逆に助けてくれたというのか!?
芽々はクルーエル大臣が分からなくて戸惑った。
そんな芽々をくすりと笑って、クルーエル大臣は一枚の紙きれを寄越してきた。
「私の元に、これが来た」
『クルーエル大臣へ。お前の秘密は分かっている。近々、『露出病』が流行るだろう。これに感染した時、お前の政治生命は断たれるだろう』
「露出病!? なんだそれ!?」
露出病って露出症じゃないのか? あの、服を脱ぎたくなるっていう――。
やっぱりこれって、謎の女の仕業なのか? 十八禁にしてやる的な……?
「露出病。この病にかかると服を脱ぎたくなるぐらい高熱が出るという厄介な病だ。しかも、特効薬がないと、治らないという……」
「じゃなくて、これって脅迫状ですか!?」
クルーエル大臣が脅されているのか? この一癖も二癖もある悪人のようなクルーエル大臣が?
芽々は、その事実が信じられなくて、脅迫状に目を落としたまま固まった。
「私をこの病にして、私を失墜させるというね。この病にかかったら仕事どころじゃないだろうからな」
「確かに、仕事をしているときに服を脱ぎだしたら立場が無くなりそうですね……」
謎の女、ある意味恐ろしすぎる……。
「実は、この病は五百年前に流行った病で、保管庫にあった特効薬はそれ一つ。病が古すぎてしかも調合レシピも朽ちてしまって肝心な調合レシピが残ってない」
「ええっ!? じゃあ、クルーエル大臣が飲むべきだったんじゃ!?」
「……芽々さんに、この病になってほしくないのでね」
ええ~っ!? そ、そんなに私の事を気に懸けてくれていたの~!?
クルーエル大臣ってめっちゃいい人なのか~!?
で、でも、今までクルーエル大臣がしてきたことは許せることじゃないし――。
芽々は、自分の立ち位置が分からなくなっていた。
クルーエル大臣は、混乱している芽々に苦笑を返した。
「というのもあるのだが、私には恐らく……」
「えっ?」
もしかして、この脅迫状に書かれているクルーエル大臣が秘密に関連している事……?
芽々は、再び脅迫状に目をやった。
「いや、なんでもない。この魔法薬を開発してくれたら、エルヴィン君を飲ませた毒から救ってあげよう」
エルヴィンを毒から救う!?
芽々は、ハッと我に返った。
エルヴィンを助けてくれるなら、条件を呑まない理由はない。
「本当ですね! 約束ですよ!」
「あ、ああ」
「あ! この空ビンを貰っても良いですか?」
「? ああ、構わないが?」
芽々が空ビンを欲している理由が、クルーエル大臣にはわからなかったようだ。
「では、頑張らせていただきます! 失礼します!」
呆気にとられているクルーエル大臣に一礼を返してから、芽々は部屋を退室したのだった。




