第十二話 目覚めのキスを回避せよ! 3
「やっぱり、キスを!? キスで、治療なのか!?」
フームス隊長は、「その通りだ」と、うなずいた。
芽々は一呼吸置いてから、『ネコのぬいぐるみ』を取り出した。
「それは、これを使えば大丈夫です!」
芽々は、それをフームス隊長に渡した。
「これは、『ネコのぬいぐるみ』?」
「これを使って、私の代わりに二人にチュッとやってください。必ず目覚めるはずです」
ネコのぬいぐるみでもイヌのぬいぐるみでも問題ない。
キスさえできれば、何だっていいのだ。
「私も、エルヴィンを起こす時にこれを使いましたから!」
芽々は、胸を張ってそう言った。
「では、芽々に頼もうか」
「えっ?」
「クリストファー様とクルーエル大臣は倒れる前に指名してきたのだから、仕方がないだろうが。俺の一存ではどうにもならん」
「わ、分かりました!」
なら、仕方ないな……!
「頼んだぞ」
フームス隊長は、すっかり元気になって、ドロップ宮殿に帰って行った。
危機一髪とはこのことだ。
これを思いつかなかったら、今頃、エルヴィンやクリストファー王子、はたまたクルーエル大臣とキスして、修羅場になっていたかもしれない。
そうなったら、烏羽玉先生の思うつぼだった。
いや、そうならなくて良かった良かった……。
ん……? なんか、後ろから邪悪な気配が――。
「芽々……」
後ろから、エルヴィンのドスの利いた声が聞こえた。
「え゛? 邪悪な気配ってエルヴィンさん……?」
振り向くと、エルヴィンの髪が炎のように揺らめいていた。
「な、なんか、滅茶苦茶怒ってません!?」
芽々はハッと我に返った。
もしかして、フームス隊長と話していたキスの事が聞こえていたのか!?
「俺の純情をもてあそんだな……?」
エルヴィンを取り巻く気がゆらりと揺れた。
やっぱり、バレてる~!
「い、いやあの、最初から、そう言おうと……!」
「許せねェェェ! 今夜は夕飯抜きだァァァァ!」
エルヴィンの気が膨れ上がって、ラボラトリーを揺らした。
「そ、そんなぁ!?」
普通はキスしたから怒るもんじゃないの!? しなくて良かったんじゃないの!?
芽々は風圧に耐えながら、必死で激怒しているエルヴィンをなだめにかかったのだった……。




