第九話 エルヴィンの目覚め
『さあ、早くエルヴィンにキスをしてくださいね~!』
芽々は烏羽玉先生にジト目を向けた。
しかし、本当にキスしないと目覚めないようだ。
どうしよう……。なにか、キスしなくてもいい方法はないだろうか。
エルヴィンの部屋を見渡した。すると、部屋のすみの『あるモノ』に目がとまった。
それは、エルヴィンの『ネコのぬいぐるみ』だ。
「こ、これだ!」
芽々は、それを持って来た。
そして、ネコのぬいぐるみの口とエルヴィンの口をくっつけた。
「う……!」
芽々の企み通り、エルヴィンは目を覚ました。
「や、やったぁ!」
『ああっ! その手がありましたか! チィイ!』
芽々の気転は思いもよらないものだったらしい。
烏羽玉先生は、滅茶苦茶悔しそうに唇をゆがめている。
キスするのは別に人でなくてもいいと芽々は考えたのだ。どうやらその考えは当たっていたようだ。
「芽々? と、烏羽玉か……」
エルヴィンは、まだ眠そうにあくびをしている。
「あ、エルヴィン。元気になってよかった~!」
「俺が目覚めたってことは……えっ、まさか、芽々が俺にキスを……?」
エルヴィンの瞳がときめいたように揺れた。
げっ!? 完全に誤解しているぞ!? ま、マズイ!
「い、いや、あのねっ!」
芽々はネコのぬいぐるみを取り出したら、エルヴィンが頬を染めて目をそらした。
あ、あんたは、どこぞの乙女か……! エルヴィンは、見るのも恥ずかしいぐらい照れまくっている。
「……サンキュ……!」
いや、エルヴィンさん、完全に誤解しているだろ……!
芽々は、ネコのぬいぐるみをエルヴィンの目の前で踊らせてみたが、エルヴィンは全然気づかない。
「芽々?」
「えっ?」
「いや、あのさ、どうやって魔法薬を作った?」
な、なんだ? このカユい空気は……!
じんましんが出そうだぞ……!
「あ、あのね」
芽々は、先ほど作った経緯を説明した。すると、エルヴィンが笑い出した。
や、やっぱり、無理があったのかな~。
「そうか、そうやって作ったのか。でも、それじゃあ効率が悪いな」
「烏羽玉先生が言うには、六枚の調合レシピがヒントなんだって」
悔しかったが、分からないので仕方がない。芽々は、エルヴィンに六枚の調合レシピを見せた。
エルヴィンは、六枚の調合レシピを見比べている。
『エルヴィンなら、分かるんじゃないですか』
烏羽玉先生が楽しそうに訊いている。自分が作ったキャラクターなので、できないはずがないと言わんばかりだ。
「なるほどな。分かったような気がする」
エルヴィンは、合点がいったように頷いた。
『それでこそ、エルヴィンです!』
烏羽玉先生は、満足そうにうなずいた。