第八話 成功率一パーセントの芽々の回答
芽々は、六枚のレシピとにらめっこした。
『『茨姫病の特効薬の調合レシピA』材料『パサパサ草の根五〇〇グラ』と『パサパサ草の葉五枚』で『成功率一パーセント』……』
『『茨姫病の特効薬の調合レシピB』材料『カサカサ草の根五〇〇グラ』と『カサカサ草の実五粒』で『成功率一パーセント』……』
上の二枚がノーア社長の持って来てくれた調合レシピだ。
『『茨姫病の特効薬の調合レシピC』材料『パサパサ草の根五〇〇グラ』と『カサカサ草の実五粒』で『成功率一パーセント』……』
『『茨姫病の特効薬の調合レシピD』材料『カサカサ草の根五〇〇グラ』と『パサパサ草の葉五枚』で『成功率一パーセント』……』
この二枚がフームス隊長の持って来てくれた調合レシピで……。
『『茨姫病の特効薬の調合レシピE』材料『カサカサ草の根五〇〇グラ』と『パサパサ草の根五〇〇グラ』で『成功率一パーセント』……』
『『茨姫病の特効薬の調合レシピF』材料『カサカサ草の実五粒』と『パサパサ草の葉五枚』で『成功率一パーセント』……』
最後の二枚が、クルーエル大臣が持って来てくれた調合レシピだ。
ふむふむ! よし、分かったぞ!
「これだ! クルーエル大臣が持ってきた『茨姫病の特効薬の調合レシピF』で試そう!」
『……は、はい?』
顔を上げると、烏羽玉先生が奇妙な顔をしてこちらを見ている。
「だからね、材料数の少ない『茨姫病の特効薬の調合レシピF』で、試してみることにしたの! 何か文句ある?」
『えーと?』
烏羽玉先生は頬を掻いている。どうやら、烏羽玉先生は芽々の答えに違和感を覚えたらしい。ということは、烏羽玉先生の答えと芽々の答えは違うということだ。
ということは、間違いってことなのかな。いや、烏羽玉先生と答えが違うからといって、不正解だとは限らない。芽々は気を取り直した。
「だからね! 成功率百パーセントって言うのは、百回のうち百回成功するってことでしょ?」
『ま、まあ、そうですね……!』
「だから、『茨姫病の特効薬の調合レシピF』のレシピを百倍して、百回分を一気に作ることにしたの!」
『ど、どうしてですか?』
烏羽玉先生は混乱しているようだ。瞬きが激しい。
「なんでって、成功率一パーセントって言うのは、百個分作ったら、九十九個は失敗でも一個は成功するってことでしょ? だから、百個作って一個成功させるってわけ。この場合は一個さえ成功すればいいんだからね!」
『ええ~っ! そんな無茶苦茶な!』
烏羽玉先生は大声を上げた。部屋の外でうねうねしている茨を刺激しないでほしいんだが。
「理論上は間違ってないでしょ!」
『で、でも、成功する確率はそうですけど、必ずそうなるとは――』
烏羽玉先生はごちゃごちゃ言っているが、芽々は材料を量り出していた。烏羽玉先生のホログラムが芽々の周りであわあわしている。
「烏羽玉先生、邪魔しない! 今量っている最中なんだからね!」
芽々は、魔法機に全て材料を入れた。魔法機の手形に手を置くと、人体に流れる微弱な魔力が注がれ、それに反応した魔法機が稼働し出す。
「まほうじゅつ~っと!」
すると、魔法機が伸縮してポンと音を立てた。
『で、できたんですか……?』
芽々はバケツを持って来て、底のふたを開けた。
「げっ、ドロドロ!」
すると、流れてきたのは、タールのような黒い液体だった。
『ほ、ほら~! 失敗じゃないですか~!』
や、やっぱり無理があったか……?
でも、タールの液体が全部出てきた後、ハチミツのような液体が出てきた。
「待って! ほらぁ! 澄んだ液体が出てきたよ~! 一個分、成功してる!」
『ま、まじですか……!』
烏羽玉先生はそれ以上何も言えないようだった。
芽々はすぐにそれを違うビンに移した。
「『茨姫病の特効薬の調合レシピF』によると、これを百倍に希釈して、茨に散布する……か!」
芽々は、それをすぐに水で百倍に薄めた。噴霧器に入れて、それを肩にかけた。ノズルを手に持って、戦闘態勢だ。
「よし! 行くよ!」
『なんていうか、芽々さんって男らしいですね~! ある意味ドキドキします!』
「コラァ! どういう意味だ!」
『そういうところが、です』
クッ……。遊ばれているような……。
でも、今は烏羽玉先生と言い争っている場合じゃない。すぐに、エルヴィンを助けなければ。
エルヴィンの部屋のドアを開けると、茨が襲い掛かってきた。芽々はすぐに、魔法薬を噴霧器で散布した。
すると、茨は停止して、みるみるうちに緑の茨は茶色く変色した。最後には、切り干し大根のようにすばって動かなくなった。芽々が恐る恐る触れると、灰のようになって床に落ちた。
「おお~! めっちゃ良く効くよ~!」
芽々は無敵だった。面白いように茨をやっつけながら、エルヴィンの部屋の方に入って行った。エルヴィンを取り囲むように生えている茨に散布すると、茨は完全に動かなくなった。
よし、エルヴィンの茨は完全に鎮圧して取り除いた。
「エルヴィン、朝だよ~!」
エルヴィンを揺すってみたが起きる気配がない。幸せそうな顔をして眠っているだけだ。
そのほかにも、芽々はエルヴィンの頬をつねったり叩いたり。足の裏をくすぐったり、お腹をこちょこちょしたが、全然効き目がない。
「全然、目覚めないけど……まさか、烏羽玉先生が言ってた通り、本当にキスしないと起きないの?」
『その通りです! 芽々さんがイケメンと恋愛がしたいと言ったんですからね!』
そ、そんなこと言ったって、本当に有言実行するとは思わないじゃないか~ッッッ!
芽々は、幸せそうに眠っているエルヴィンを途方にくれながら見下ろすのだった。