第六話 成功率一パーセントにかけろ!? 3
芽々は、クルーエル大臣から事のあらましを聞いた。
クリストファー王子の部屋の窓から茨の蔓が伸びてきて、窓ガラスを割って侵入してきたという。近衛兵がクリストファー王子を庇ったが、ことごとくやられた。ついにはクリストファー王子が茨の蔓で腕を傷つけられてしまった。近衛兵が、茨に取り囲まれて、眠りにつくのを目撃したクリストファー王子は、大声を張り上げた。
『みんな、部屋の外に出ろ!』
クリストファー王子は、普段とは違う鬼気迫る表情でお付きの者たちや臣下を部屋の外に追い出した。
『クリストファー様!』
クリストファー王子は、中から部屋の鍵をかけた。
『私のことは心配いらない! 芽々が治してくれるはずだ!』
『め、芽々様が……?』
いきなり出てきた芽々の名前に、お付きの者たちが吃驚していた。どうして、エルヴィン先生でもブランダ先生でもなく、調合師の弟子の芽々が指名されるのだろうと不思議がっていた。
『クルーエル大臣に言って、芽々に調合レシピを届けるように伝えてくれ!』
『か、かしこまりました!』
『それに、私は、やっと眠れる……』
クリストファー王子の声が、力をなくして聞こえなくなった。
『クリストファー様!!』
それが、クルーエル大臣が臣下から聞かされたあらましだというわけだ。
いまだ、クリストファー王子の部屋の鍵は開けられていないという。それが、クリストファー王子の意志だからというが、本当かなぁ……? クルーエル大臣の事だから、クリストファー王子の事を――。
「それで、芽々さんに特効薬を作ってもらいたくて、調合レシピを持ってきたというわけだ」
疑り深い目でクルーエル大臣の方を見ていると、彼は調合レシピを二枚渡してきた。
「ま、まさかこれって……!?」
またもや、デジャビュ!?
『『茨姫病の特効薬の調合レシピE』材料『カサカサ草の根五〇〇グラ』と『パサパサ草の根五〇〇グラ』で『成功率一パーセント』……』
『『茨姫病の特効薬の調合レシピF』材料『カサカサ草の実五粒』と『パサパサ草の葉五枚』で『成功率一パーセント』……』
やっぱり、成功率一パーセントぉお……!
「ど、どうして私に……」
「エルヴィン君の病気を治す魔法薬を作った芽々さんにならできると思ってね」
いや、あれは運が良かっただけで……。
「必ず作ってくれ!」
しかし、よりによってクルーエル大臣は絶対的な口調で命令してきた。
「は、はい……でも……」
成功率一パーセントはちょっとできないかもしれないんですが……。
うぐぅ、断りにくいぞ! どうすれば! エルヴィン~!
助けを求めるようにチラチラと後ろを振り返っていると。
「私が、クリストファー様をお助けするのが不可解だと見えるな」
「い、いや、そうでは……」
完全にクルーエル大臣は芽々の返事の意味を取り違えている。
こ、困ったぞ。この流れでは、了承したことになっているんじゃ……?
しかし、勘違いしまくったクルーエル大臣は、笑顔で答えた。
「芽々さんに最初に出会った時に言った言葉は私の本意ではない」
えっ? 最初に言った言葉……? それって――?
「私も、色々と事情があるのだ。クリストファー様を陰ながらお助けすることが私の使命だと思っている。いや、冗談だと思ってくれてもかまわない。そちらの方が、私としても」
「えっと、どういうことですか?」
クルーエル大臣はフッと笑った。そして、話をすり替えた。
「……実は、臣下に見つからない抜け道を見つけたのだよ。また、会いに来る。では、失礼するよ」
そうして、土砂降りの雨の中、クルーエル大臣はドロップ宮殿に帰って行った。
なんだろう、あのクルーエル大臣のセリフ。本当は、クリストファー王子の味方みたいな感じに聞こえたけど。それならそれでいいんだ。でも、結局、断れなかった……!
しかし、その数時間後に速達が届いた。それは、ドロップ宮殿からで、クルーエル大臣が茨姫病で倒れたらしいとの連絡だった。クルーエル大臣は、臣下の者たちを追い出して自分の部屋に鍵をかけたという。
肝心な要件はというと、芽々が茨姫病の特効薬を早く作るようにという要請だったのである。