第五話 成功率一パーセントにかけろ!? 2
「ありがとうございましたー!」
走り出した荷馬車に芽々はお辞儀した。
フームス隊長率いるガーディアンができあがった『モンスター植物駆除の魔法薬A』の魔法薬を取りに来たのだ。荷馬車にタンクを積みこんだ後、ガーディアンは引き上げて行ったというわけだ。
「あ、雨が降り出した……!」
雨脚が激しくなってきたので、芽々は店の中に駆け込んだ。ドアチャイムの音が雨音に混じって鳴った。
「ふぅ。ひと段落だな」
大仕事を終えて、エルヴィンは椅子にぐて~っと体重を預けている。
芽々はエルヴィンが作った栄養剤のドリンクを手渡した。
「お疲れ様だね!」
「サンキュ!」
エルヴィンは、嬉しそうにそれを飲み始めた。
芽々もそれのフタを開けて、飲もうとした。
ふと見たレジ台に、紙切れが二枚置かれてあった。その横には、ノーア社長が置いて行った調合レシピが二枚ある。芽々はレジ台の方に回り込んで、それを覗き込んだ。
「フームス隊長、成功率一パーセントの調合レシピ忘れて行っているよ?」
栄養剤のビンをそれ用のゴミ箱に捨てる音がした。顔を上げると、エルヴィンが歩いて来ていた。
「せっかくだから、作ってみるか?」
「おお~! 成功率一パーセントの『茨姫病の特効薬レシピ』に挑戦だ!」
芽々とエルヴィンはその調合レシピ四枚を手に、ラボラトリーの方に移動した。
すでに、材料はラボラトリーの方に運び込まれてある。
『『茨姫病の特効薬の調合レシピC』材料『パサパサ草の根五〇〇グラ』と『カサカサ草の実五粒』で『成功率一パーセント』……』
エルヴィンが、しっかりと量りの目盛を見ている。パサパサ草の根っこの部分なので、切ったり足したりしながら重さを調節している。
「パサパサ草の根……五〇〇グラ……」
「カサカサ草の葉五枚だね!」
芽々は、出来るだけ綺麗なカサカサ層の葉を五枚選んだ。
「これを、魔法機にかける……っと!」
エルヴィンが手形に手を置いた。
魔法機が伸縮を繰り返してポンと音を立てた。
「できた!?」
できあがった音は、成功した時と変わらないけど――。
ドキドキしながら、ビンに流し込む。
すると、真っ黒なドロドロの液体が出てきた。何だこれ!?
「ああ、これは失敗だな。失敗作は真っ黒なヘドロみたいになってるからな」
「そうなんだ……これが失敗作か……」
そう言えば、失敗作は見たことがなかった。エルヴィンは天才調合師だから滅多に失敗しないし、芽々も今のところツイていたからかもしれないが。
芽々もエルヴィンも一通り試してみたが、どれも失敗だった。
「うう~ん、うまく行かないなぁ。エルヴィンでも、ダメだからな~。成功率一パーセントを成功率百パーセントにあげる方法ってないのかな~」
「……芽々ならうまく行くんじゃないか?」
「持ち上げたってなにも出ないよ!」
芽々は空笑いして、飲みかけの栄養剤のドリンクを傾けた。
「いや、俺の病気を治してくれた調合レシピ。あれは成功率二パーセントだったからな!」
芽々は、思わずむせそうになった。
「えっ!? そ、そうなの!?」
今明かされる真実……! あの状況って綱渡りだったんだな……そう思うと怖いな!
その時、店の方からドアチャイムの音が聞こえた。雨で湿気た空気と土のにおいがふわっと香った。
「邪魔するぞ!」
芽々は、店の方では聞き慣れないが、良く知っている声に驚いて店の方に走って行った。
びしょ濡れの外套を着た一人の身なりの良い男が立っていた。
彼は、フードを下げて髪を掻き上げた。
やっぱり……! それは、クルーエル大臣だった。
「どうされたんですか、クルーエル大臣……! アレ? 今日は、お一人ですか?」
「今日は、芽々さんに用があってこっそりと馬で来た」
「ハッ、芽々にね!」
笑顔で親しげに話しているせいか、エルヴィンは吐き捨てるように言って、ラボラトリーの奥に消えた。
な、なんだ?
芽々が、エルヴィンの方を気にしていると、クルーエル大臣が深刻そうな顔になった。
えっ……? なんか嫌な予感!
「実は、クリストファー王子が茨姫病でお倒れになった」
「は、ハァ!?」
ま、まじで!? 烏羽玉先生、何やっちゃってくれてんの!?