第一話 芽々の地団太とブランダ先生の魔法薬
ブランダ先生が釈放された日、エルヴィンは少し具合が悪そうだったので、芽々は滅茶苦茶心配していた。
可愛いアベリルは疲れてテーブルの上ですやすやと寝息を立てていたが、このブランダ先生の酔っぱらいは留まるところを知らなかった。
「ちょっとまへ。わたちがなんとかしてやるのらー!」
ブランダ先生はへべれけに酔ったまま宣言すると、エルヴィンのラボラトリーに入って行って、材料を魔法機の中に放り込んだ。そして、魔法機にかけてしまった。そうして、紫色の湯気が出ている魔法薬をもってふらふらしながらこっちに歩いてきた。
「これをのめ! あっという間に良くなるのらー!」
その千鳥足は、よぼよぼの老人かと思うぐらいだ。しかも、手にはヤバい魔法薬が!
「ちょ、ちょっと待て!」
芽々は酔っぱらいの奇行を止めるべく、ブランダに駆け寄った。
「そんな状態で作ったものをエルヴィンに飲ませられるか!」
芽々は激怒して、ブランダ先生から魔法薬を取り上げようと思った。しかし、それより早く、エルヴィンがそれを受け取ったのだった。
芽々は目を疑った。エルヴィンはそれを飲み干してしまったのだ。芽々は絶句して鳥肌を立てていたが、衝撃と共に現実が帰ってきた。
どええええええええええええええ!?
「え、エルヴィン、そんなの飲んで大丈夫なの!?」
芽々は、驚愕が目から出そうになっている。しかし、エルヴィンはマイペースというか平然としたものだ。
「ああ、ブランダはこんなに酔っててもちゃんとした魔法薬を作れるからな」
エルヴィンは、魔法薬の入っていた空ビンを振りながら、我がことのように自慢した。
「あ、調子が良くなって来たみたいだな! サンキュ、ブランダ!」
「へへへ~、どういたま!」
芽々は、口をへの字にした。
更に、エルヴィンは、ブランダ先生と発泡酒を飲み比べをすると言っている。なんでも、魔法薬は普通の薬と違って、お酒を飲んでも害がないそうだ。
芽々は、唸ってそのまま自室のベッドに飛び込んだ。
あー! 面白くないっ!
何が面白くないって、エルヴィンが調子悪くてもブランダ先生みたいに魔法薬を作ってあげれない自分の不甲斐なさが!
芽々はベッドの上でじたばたした。
そして、枕を引き寄せ、肘をつく。
「それに、この異世界ってイケメンが沢山いるのに、何でエルヴィンも他の奴らも私と恋愛にならないんだ!? 烏羽玉なんとかしろ~!!」
★ ★ ★
ベッドの上でやけになって地団太している芽々を、烏羽玉先生は当然のようにマイパソコンで見てクスクスと笑っていた。烏羽玉先生は寝支度をした後、パソコンに向かっていた。診察で疲れていたが、芽々の姿を見ると疲れが吹き飛ぶらしい。
「仕方ありませんね~、チョロインの芽々さんは。では、異世界を書き直しておきますか~」
烏羽玉先生はにこにこしながら、キーボードをカタカタと打つのだった。