第四話 調合師のラボラトリー
「どうしてって道に迷ったから……」
でも、腹立つなぁ。
「なんで、道に迷って助けを求めていただけなのに、そんな目で見られなきゃなんないの?」
芽々が憤慨すると、エルヴィンはうなずいた。
「本当か? じゃあ、お前は一体何者なんだ?」
「何者?……普通の人間ですが!」
「やっぱり、張っ倒してよかったぜ。もし、泥棒だったら――」
「ハァ!?」
「なんだ?」
「ちょっと待って、私を張っ倒した……?」
「そうだ、俺がアヤシサ抜群のお前を後ろから棍棒で殴り倒した」
「何やってくれちゃってんの!? 寒気を感じたのはあんたの殺気か!」
「寒気……? どうでもいい。お前が泥棒だったら『守護者』に突き出すまでだ」
「ガーディアンって何!」
「……ガーディアンは治安維持に努めている国の組織だ」
「ふーん。でも、私は泥棒じゃないよ! 私は異世界から来たの! 病院行ったら、心療内科に回されて、なんか薬飲まされて、扉を開けたら、あの森にいたの。だから、私は被害者なの!」
「……あの森は『不磨の森』だ。魔法薬の材料がここでよく取れるんだ。そして、ここは、不磨の森の近くにある俺の研究室……『ラボラトリー』だ。お前、よく『ペイルアンテッド』に襲われなかったな?」
「ペイルアンテッド……?」
「ペイルアンテッドは、異世界から成仏できなかった魂が何故かこの世界の不磨の森に集まってきて、モンスター化しているらしい。だから、普通には倒せない。だから、『転生の薬』を『ドラッグガン』で撃って成仏させて、他の異世界での転生を促すわけだな」
「ふーん……でも、エルヴィンは不磨の森で何をしてたの? よく襲われなかったね」
「『鳥になる薬』で鳥になって空を飛んで、適当に材料を採取して帰ってきたら、お前がいたわけだ」
「鳥になって空を飛んできた!?」
「驚くことはない。俺の『特許』を取ってる魔法薬の一つだ。この特許のお蔭でメシが食えているってわけだ」
エルヴィンが腕時計を見た。
「そろそろ、薬の効果が切れる頃だな。よし、こんな所まで来た奴は面白いから、ここで雇ってやる」
「えっ……雇う?」
エルヴィンが優しく微笑んだ。
「どうせ、行く当ても職もないんだろ?」
「う、うん! ありがとう! もしかして、私の言っている事、全部信用してくれたの?」
「実はお前に『自白剤』を飲ませてたんだ。ハハッ!」
「笑い事か! 変なもん飲ませんな! 道理で心の声をペラッペラ喋っちゃうと思った!」
「大丈夫だ。俺の作った魔法薬は、飲みやすく、副作用ナシ、しかも健康になる!」
「健康になる自白剤って何だ!」
「クックック、今日からお前は俺の弟子だ。ヨロシクな?」
ご機嫌で笑っているエルヴィンを、芽々は半眼で見つめた。
何故かは知らないが、この男に気に入られたらしい。
でも、変な薬を飲ませてくる男なんて、超が百個付くイケメンでもお断りだ……!
衣食住には困らないが、どことなく恐ろしいのか、寒気がまた……!
気がつくと、ベラベラ喋っていた芽々の口が大人しくなっていた。どうやら、薬の効果が切れたらしい。それを良いことに心の中で思いっきり芽々は悪態をついたのだった。