第十話 完成した魔法薬
「まず、メロメロティを魔法機に入れて、成分を抽出する……!」
エルヴィンが、メロメロティを魔法機に入れてフタをした。そして、両手を魔法機の手形においた。すると、魔法機が伸縮して、ポンと音を立てた。そこを開けるとメロメロティの成分が粉になって魔法機から出てきた。
しかし、エルヴィンは、それをまた魔法機の中に入れてしまった。
「成分を抽出したメロメロティの粉を再び魔法機に入れて、俺が開発した魔法薬の効果を一〇〇倍にする作用のある『バイバイ君一号改良版』を希釈しないで入れる」
エルヴィンが、薬棚から茶褐色の小ビンを持ってきた。そして、全て流し入れた。
芽々は吃驚して声を上げた。
「ちょっと待ってよ! そんな便利なものがあるなら、最初から言ってくれれば!」
風邪薬の時もあんなに悩まなかったのに……!
エルヴィンが笑った。
「あのな、『バイバイ君一号改良版』はとてつもなく高価な材料を使った上に、俺でも成功率1パーセントだという、とっておきなんだ! いざという時に使おうと思って大切に取っておいたんだ」
「え、そうなの……?」
芽々は目をぱちくりした。エルヴィンは奥からセメントのような袋を持ってきた。その粉を、魔法機の中に流し入れた。たしか、あれは……。
「かさ上げの『デンデンプン粉』を大量に入れて、これで、魔法機にかける……っと!」
魔法機は伸縮してポンと音を立てた。
「これで、『疫病Aの特効薬』の出来上がりだ!」
エルヴィンが、小ビンの中に魔法薬の錠剤を流し入れた。まだ、魔法機の中には大量にあるようだ。芽々は舌を巻いた。
「す、すごい……!」
エルヴィンって、魔法使いみたい……!
「これで、千人分だ」
「千人分? 確か、都民は一千万人くらいいたはずじゃ……」
エルヴィンは頷いた。これも、想定の範囲内らしい。
「だから、その千人分で先に荷馬車屋を回復させて、メロメロティを仕入れてもらう足を作る。でも、メロメロティは高価な食べ物だから庶民には届かない。だから、政治の権限を持っているクルーエル大臣も回復させて何とかしてもらおう!」
「うん! じゃあ早速、荷馬車屋に行こう!」
芽々とエルヴィンは、魔法薬を手に荷馬車屋に向かった。そして、その後でエルヴィンと芽々はドロップ宮殿に向かった。
★ ★ ★
ドロップ宮殿のクルーエル大臣の部屋では、深刻な雰囲気が漂っていた。
ベッドの上には、クルーエル大臣が横たわっている。そして、主治医が『疫病Aの特効薬』を飲ませると、数秒後にクルーエル大臣は身じろぎした。
「う……」
す、すごい! 芽々は、その効果に驚いた。
芽々のメロメロティが特効薬だという判断は間違っていなかったというわけだ。そして、エルヴィンの腕も流石だった。
「クルーエル大臣、気がつかれましたか!」
お付きの者たちが喜んでいる。
クルーエル大臣は、寝ぼけ眼をこちらに向けて、芽々たちを見た。
「私は……?」
「あの疫病でお倒れになったのです。それで、エルヴィン様が特効薬を作ってくれたので、事なきを得たというわけです」
「いえ、芽々様がメロメロティが特効薬になることを突き止めたのですよ!」
「そうか……! エルヴィン君と芽々さんが!」
力を取り戻したクルーエル大臣は、ベッドの上に座った。
し、しかし、魔法薬の効果ってすごいなぁ。一発で快復だもんな。
それよりもだ……!
「クルーエル大臣、すぐに特効薬になるメロメロティを仕入れてください。もう、材料がなくて……!」
メロメロティが入ってこない事には、残りの国民が助からないのだ。すでに、メロメロティを仕入れる足は出来ている。荷馬車屋の従業員はすでに快復させたのだ。
芽々が懇願すると、クルーエル大臣は本当に嬉しそうに首肯した。
「分かった。すぐに、メロメロティを仕入れよう! そして、国民に無料で配布しよう! お前たち、分かったな? すぐに動いてくれ!」
クルーエル大臣は、お付きの者たちにすぐに指示を出した。恐らく、臣下たちにその命令を伝えるのだろう。
クルーエル大臣は、国王たちには残酷な人だが、庶民に対しては驚くほど良い人だった。だから、芽々は、クルーエル大臣の事を少し見直したのだ。
「クルーエル大臣、ありがとうございます」
「ありがとうございます! クルーエル大臣!」
「お礼を言うのは、こちらの方だ。芽々さん、エルヴィン君、本当にありがとう!」
クルーエル大臣は、本当に嬉しそうに微笑んだ。
芽々は敵味方の事を忘れて、エルヴィンと一緒にしばしの間微笑むのだった。
★ ★ ★
そして、一週間が過ぎた。
国民はすっかり良くなったので、王都ファンティアの街も賑わいを見せている。
しかし、不磨の森に出ている『キラキラ霧』で出来たオーロラは消えてなかった。そして、ブランダ先生は、まだ地下牢に入れられたままだった。
「ブランダ先生……! 私はどうしたら良いのか分かりません……!」
ブランダ先生の弟子のアベリルは、材料が入ってこないことで、絶望して部屋の隅で座り込んで泣いていた。ブランダ先生を助けようにも、材料がない事には研究もできないのだから。
その時、ドアチャイムの音が鳴った。
「誰ですか?」
入ってきた影が逆光になってよく分からない。
二人がドアを閉めた。すると、姿が露わになる。
「アベリル!」
そこにいたのは、芽々とエルヴィンだった。
芽々は、アベリルに駆け寄った。
「アベリル、助けに来たよ!」
「芽々おねえちゃん……!」
アベリルは芽々に抱き付いて、大泣きしたのだった。




