第四話 特効薬を作りませんか……?2
「クラウド、エルヴィンのことライバル視しまくりだったね……!」
芽々がそう言うと、エルヴィンは苦笑いした。そして、彼は「うーん」と考え込んだ。
「どうするかなぁ……? これって特効薬が作れなかったら、研究費を自腹で何とかしなくちゃならないってことだよな?」
「……感染症を治したら、エルヴィンラボラトリーに箔が付きそうだけどね!」
「まあ、じっくり考えるかな!」
「そうだね!」
芽々は店内にかけられている時計を見た。時計は六時を示している。
「そろそろ、荷馬車屋さんが材料を持って来てくれるはずなんだけど……来ないね?」
いつもは午前中に配達に来てくれるのだが、何故か今日は今まで音沙汰がない。この異世界では、電話やスマホなども開発されてない。連絡手段は郵便だけだ。
「電報でも売ってこようかなぁ」
「芽々」
エルヴィンが、芽々の事をジッと見つめてきた。
芽々も負けじと見つめ返す。
急にドアチャイムの音がして芽々は飛び上がった。
「芽々さん、エルヴィン君、こんにちは!」
「ノーア社長!? どうされたんですか……」
やってきたのは、荷馬車屋の配達のおっちゃんではなくノーア社長だった。
先ほどの続きじゃないが、芽々は横に控えている強面の縦じまスーツのお兄さん二人とウッカリ見つめ合ってしまった。芽々の額から冷たい汗が流れ落ちる。
「コホン!」
エルヴィンが咳払いしたので、芽々はそっと視線を外して、ノーア社長に向き直った。
「の、ノーアさん! 今日は、社長自ら配達を……?」
「いや、謎の疫病で、荷馬車屋の従業員も半分ほど寝込んでしまってね。それで、これだ!」
ノーア社長は、チラシをレジ台の上に置いた。エルヴィンが、見えるようにチラシを一回転させる。芽々は、エルヴィンの腕の上から覗き込んで読み上げた。
「『謎の疫病を断て! 特効薬の製作にご協力くださった調合師様だけには研究費を全額お支払い致します。そして、特効薬を作った強者には、ドロップ宮殿から表彰され、賞金百万ティアが出ます。貴方の挑戦で王都ファンティアが救われます。どうぞ、ふるってご参加ください』……ってこれさっき見たやつだ!」
「芽々さんたちはご存じのようだ。知っているなら、話は早い」
なんか、嫌な予感……!
「私たちは働き手を半数近く失って困り果てているんです。ノーア社長もこのままでは業務が成り立たなくなると」
強面のお兄さんの一人が懇願するように言った。
「そこで、エルヴィンラボラトリーさんにこれに参加してもらいたいのです!」
「えーと、暫く考えさせてください……!」
芽々が断ろうとしたが、ノーア社長はため息を吐いた。
「参加してくれなければ、そちらとしても困ると思うのだがね?」
「材料が届かなくなるからですか……?」
「そう言うことだ。芽々さんは察しがいい!」
あ、足元見られているような……!
エルヴィンが頷いた。
「分かりました。できるかできないか分かりませんが、全力で取り組みます。さっきも芽々にそう言おうと思ったんだ」
な、なんだ~。無駄に見つめられたからどうしたのかと思ったよ……!
「流石、エルヴィン君だ! 話が早くて助かるよ!」
ノーア社長は大喜びだ。
でも、特効薬ができなかったら、赤字になっちゃうかもしれないのか……。
でも、ノーア社長からも恩恵をあずかっているわけだし――。
「いっちょエルヴィンと二人で頑張るか……!」
「そう来なくてはね!」
有り難いことに、今日もノーア社長は材料を届けてくれた。
「そうそう、従業員たちが不磨の森に行ったときに、オーロラを近くで見たんだが……」
「あれは、オーロラじゃないんですよ~」
「『キラキラ霧』っていう高価な材料なんですよ」
芽々とエルヴィンが説明すると、ノーア社長は頷いた。
「だろ! だと思ってね、私はオーロラが出た時に従業員たちに指示したんだ。アレを全部取ってくるようにと!」
おお! ノーア社長はぼろ儲けする気だ……!
でも、隣でエルヴィンが苦笑している。
「でも、ノーア社長。ダメなんですよ。『キラキラ霧』は夜に出たでしょ?」
「あ、ああ。それが?」
「夜に出た『キラキラ霧』は不磨の森の『瘴気』を吸い込んでしまって、材料としては使い物にならないんですよ」
「な、何だって!? 私たちはガラクタを必死になってかき集めていたのか!?」
クッ、そんなカラクリが……!
ノーア社長は抜け殻のようになっている。
お気の毒に……!
そうだよなぁ。そんな『キラキラ霧』がしょっちゅう出るなら、不磨の森の出口に住んでいたエルヴィンはとっくの昔に億万長者だよな~!
「あの夜から、従業員がバタバタと倒れだしたんだ! 行かせるんじゃなかったと思って……!」
「ちょ、ちょっと待ってください!? ってことは、あの疫病は『瘴気を吸い込んだキラキラ霧』が原因ってことですか!?」
「もしかするとそうかもしれないな」
エルヴィンも知らなかったらしい。
「ということは、オーロラを見に来た観光客や都民はヤバいんじゃないですかね」
強面のお兄さんの一人が言った。
芽々とエルヴィンはハッとして顔を見合わせた。