第三話 特効薬を作りませんか……?
芽々はエルヴィンと交代で、解熱剤の調合を夕方までノンストップで続けていた。『ヒヤヒヤ油 二〇滴』と『熱冷まし草 五〇グラ』を魔法機で調合して取り出して、小ビンに詰め、ラベルを張る。延々とそれを繰り返していた。
お蔭で材料はあと僅か!
材料が切れたら作れなくなるけど……と思いながら、ラベルをペタペタ……。
「ありがとうございました」
ドアチャイムの音が涼やかな音で鳴った。
「芽々、もうお客さんは全員帰ったみたいだぞ?」
「ああ~、終わったぁ!」
芽々はその場にへたり込んだ。エルヴィンがドリンクタイプの栄養剤を持ってきてくれた。
「ほら」
「ありがと」
エルヴィンはすでにマスクを取って、ドリンクを飲みだした。
芽々もマスクを取る。
「エルヴィン、お疲れ! 解熱剤は五〇〇個近く売れたよ!」
遠い目をしてドアの方をエルヴィンが見つめている。芽々もドリンクを傾けた。
「フッ……熱が下がるといいけどな……」
思わず芽々はむせそうになった。飲みかけた栄養剤を無駄にするところだった……!
多分、熱は下がらないってわけか……! ということは、エルヴィンラボラトリーの評判はがた落ちってことなのかなぁ……。
「ねえ、エルヴィン」
「芽々、なんだ?」
「エルヴィンは、この疫病の特効薬を作ったりしないの?」
「えっ?」
芽々に言われて、エルヴィンは目を瞬いた。エルヴィンにとっては意外なことだったらしい。
「クルーエル大臣が言っていたけど、エルヴィンって天才調合師なんでしょ?」
話を中断するように、ドアチャイムの音がカランカランと鳴った。
「いらっしゃいませ~」
やってきた二人は、嘆息しながらマスクを取った。
「なんだクラウドか……」
エルヴィンの疲れが上昇したようだ。
「芽々さん、お久しぶりです!」
「ど、どうも~」
クラウドは二人で来店した。
とは言っても、カノジョではなく、男だった。しかも、イケメン!
そんな芽々に気づいたエルヴィンが、ジト目をこっちに向けている。
「何の用だよ?」と、エルヴィン。
「エルヴィン君のラボラトリーも大変だったみたいだね! 僕の所もこの疫病のせいで信用ががた落ちだよ! なんせ、特効薬がないからね!」
クラウドの所と、一緒にしてほしくないような……!
「はぁ、疲れた」と、謎のイケメンが隣で脱力した。
「で、こちらが、診療所のガードさん!」
ガード先生は、三十代ぐらいのハンサムな人だった。黒髪を二つに分けたヘアスタイルをして、疲れたような青い目をしている。疲れていてもイケメン!
「エルヴィンラボラトリーのエルヴィンです」
「弟子の芽々です!」
芽々たちは握手をした。ガード先生は、疲れたように肩を叩いている。
「コンニチハ。ガード診療所のガードです。なんつうか、この疫病のせいで患者が急激に増えましてね。疲れててイカン。で、栄養剤ってあるかな?」
「芽々、あるか?」
「うん! 二五〇ティアです!」
「や、安い! そんな安くて効くのか!?」
「ちゃんと効きますよ~! しかも、とってもいい材料を使っていますからね!」
荷馬車屋のタダの材料をふんだんに使っておりますよ~!
ドリンクタイプの栄養剤を芽々が差し出すと、ガード先生は代金を払った。
ガード先生は疑いながら飲みだす。しかし、その即効性に驚きをあらわにした。
「おお、これはスゴイ! 身体が一気に軽くなった!」
「むむぅ。やるな、エルヴィン君も芽々さんも!」
クラウドが悔しそうにしている。
「それで、本題ですが」いきなり、ガード先生が鞄の中を探り出した。
「本題?」と、芽々はエルヴィンと顔を見合わせた。
「ええ、クラウドさんにも言ったんですけどね。今、謎の疫病が流行っているでしょ?」
「はい、もうべらッッッぼうに流行ってますね!」
先ほどの五〇〇人くらいの行列を消化した後なので、力を込めて芽々は言った。
「で、ドロップ宮殿から各ラボラトリーに配布してほしいと頼まれましてね。これですが」
エルヴィンがガード先生からチラシを受け取っていた。芽々は、エルヴィンの横からチラシを覗き込んだ。すると、エルヴィンが読み出した。
「『謎の疫病を断て! 特効薬の製作にご協力くださった調合師様だけには研究費を全額お支払い致します。そして、特効薬を作った強者には、ドロップ宮殿から表彰され、賞金百万ティアが出ます。貴方の挑戦で王都ファンティアが救われます。どうぞ、ふるってご参加ください』……」
「ちなみに、僕は、参加するからな! 特効薬を作ってエルヴィン君を負かす! ワーッハハハハハ!」
エルヴィンが、額を押えてぐったりした。
うん、エルヴィンの気持ちは分かるよ!
どうして、特効薬を作ったらエルヴィンを負かすことになるのかが分からんということだね……!
「じゃあ、用件はそれだけなので、失礼しますね」
「ご、ご苦労様です……」
ガード先生だけが礼儀正しく一礼した。クラウドはふんぞり返って、大笑いしながらドアから出て行った。
「はぁ、疲れた」
ガード先生の口癖がうつってしまった。
芽々も、ぐったりしながら二人を見送ったのだった。