第三話 調合師のエルヴィン先生
「う……?」
目を開けると、芽々を何者かが覗き込んでいた。
「気がついたか?」
「私……?」
視界がブレる。芽々は瞬きを繰り返した。次第に視界が鮮明になる。
ここはどこ……?
雑多とした物が並んでいる西洋風の部屋と、部屋の中央に大きなステンレスの機械が、全て横に見えた。それは、芽々が横臥されているからに他ならない。
そして、誰だろう、この男は……?
年は二十歳ほど。ハチミツ色の髪の毛に、緑色の切れ長の瞳。背が高くて細マッチョだ。
しかも、変な作業着を着ている。変なのは異世界風の服だからそう感じるのか。
それに加えて、この烏羽玉先生を超える整った顔は、否応なしに気分を高調させて、ありえないロマンスまで期待させてしまう。
そうだ。ここは異世界だったっけ?
だったら、この人は……?
ひとまず、上体を起こそうとした。何か言葉を口にしようとしたが、異変に気づいて愛想笑いが引きつった。
あ、あれ……? 体を起こそうとしたのにできない……!?
芽々は、絶望感と一緒に目を白黒させた。
「ちょっと、なんで私の身体は動かないんですか!?」
まさか、何者かに殴られた衝撃で身体に支障が出たのだろうか。
芽々の心配をよそに、イケメンの彼はニヤリと黒い笑みを放った。彼の顔に、してやったりと書いている気がして、芽々は超不安になった。
「それはな、俺が開発した、『身体硬直君一号改良版』の魔法薬を飲ませて動けなくしたからに決まっているだろ?」
「はぁ!? なななななんでそんなことを!? なんでそんなもん飲ませんだ! もしかして、私は窮地に陥っているの!?」
身体が全然動かないので、芽々は半パニック状態だ。
「安心しろ、『改良版』だから、言葉は喋れるようになっている」
「そう言う問題じゃない! ていうか、あんた誰!」
「俺は、エルヴィンっていう調合師だ」
「……調合師……?」
それって何?
「なんだ? 信じないのか? じゃあ、見せてやるよ」
どうやら、芽々が不思議そうな顔をしたので、どうやら疑っているとエルヴィンは受けとめたようだ。
エルヴィンは、部屋の隅から大袋と小さな袋を抱えて戻ってきた。
「そこに、大きな機械があるだろ?」
「うん、あるね!」
部屋の中央に、学校の焼却炉のような大きな鉄製の機械が備え付けられてあった。きれいに磨かれており、シルバーに光っている。
「これは、『魔法機』だ。ここに、『ベコベコの実一〇〇グラ』と『グリングリンの葉大一枚』を入れて、ふたをして、両手をここに置く」
エルヴィンは、鼻歌交じりにふたをして魔法機の手形に凹んだところに両手を置いた。丁度、壁に手をついているような格好だ。
「ま~ほ~じゅつ~うぅ~ハァ!」
エルヴィンが脱力するような変な呪文を唱えると、魔法機が震えて中でボンッと音がした。
「なんとなく、ポン菓子を作るような機械だなぁ」
「じゃじゃじゃじゃ~ん!」
エルヴィンはしたり顔になって、魔法機からビーカーに錠剤をザラザラと流し入れた。
「この魔法術で、『風邪薬』ができる。どやぁ!」
芽々は半眼になった。
「へえ、立派な機械ですね」
「コラコラコラ、他の機械と一緒にするな? さっきのはほんの一例だけど、この魔法機と材料があればどんな薬でも作れるんだからな!」
「ふぅん……」
凄いのか凄くないのかいまいち分からんけど。普通の機械じゃないのかな?
「よく分からないけど、スゴイんですね」
「よく分からないのは、お前の方だ」
いきなり、にこにこしていたエルヴィンの顔が険しくなった。
「あ、あれ……? 風向きが変わった……?」
「どうして、俺のラボラトリーに勝手に入ってきていた?」