第九話 魔法薬と代役
保管庫の照明は明々と点いている。
芽々は、保管庫に来てアリエンと交渉をしていた。薬棚の整理整頓をしていたアリエンは、ハシゴから降りてきた。
「クリストファー様の特効薬を作りたいから材料をくれだって?」
アリエンが、怪訝そうに聞き返してきた。芽々は頷いた。
薬棚のビンを木の箱から取り出しながらアリエンは笑った。
「調合師の弟子の芽々にできるのか? ありえんだろ?」
「そんなこと言わないで、調合レシピだってあるんだから!」
調合レシピを見せると、アリエンは真剣な顔つきになった。アリエンは、それを受け取って目で追っている。
「たしかに、この調合レシピはありえんくらいよくできている……」
芽々が祈っていると、アリエンは頷いた。
「よし、クリストファー様のためだ! 材料を用意しよう!」
「ありがとう! それで、ドロップ宮殿に魔法機ってあるかな?」
「ああ、あるよ。隣がドロップ宮殿のラボラトリーだから」
★ ★ ★
芽々と烏羽玉先生は、アリエンから材料を貰ってドロップ宮殿のラボラトリーにお邪魔した。両手いっぱいに材料を抱えた芽々は、ラボラトリーのドアを器用に開ける。
「失礼しまーす!」
照明を点けると、科学室のような光景が広がっていた。ほのかに薬臭いにおいがしている。
しかし、ラボラトリーにはひと気がない。どうやら、調合師たちは帰ってしまった後らしい。
「よいしょっと!」
芽々は、抱えてきた材料をテーブルの上に置いた。
『ガマガマの油 五滴』に『ヒヤヒヤ油 五滴』・『アカイの花びら 六枚』・『アオイの花粉 三グラ』・『カラカラヘビのマムシ酒 七滴』・『禁鳥の羽 一枚』・『金色ハーブの葉 三枚』。
小ビンに入っているモノが殆どだが、禁鳥の羽や金色ハーブの葉などは、小箱に入れた物を持って来ている。普通に流通しているものもある。しかし、禁鳥の羽や金色ハーブの葉は、ドロップ宮殿でしか手に入らない高価な材料だとアリエンは教えてくれた。
芽々は、それを正確に計って魔法機の中に入れた。そして、魔法機の手形に手を置く。
「まほうじゅつ~ぅ!」
呪文に関係なく、魔法機は伸縮してポンと音がした。
「烏羽玉先生、できたけど成功してるかな?」
手のひらに錠剤を流して、芽々は烏羽玉先生に見せた。
『難しい調合なのに上手くできてます! 流石芽々さんですね!』
「ほ、ホント!? やったぁ!」
芽々は、魔法薬をビンの中に入れた。
「あとは、これをクリストファー様に渡すだけ……」
瞬間、芽々の満面の笑みが凍った。
「しまった! 私、渡せないよ! これをクリストファー様に渡したら、クルーエル大臣に何をされるか!」
クルーエル大臣には、クリストファー王子を殺す手伝いをしろと言われているのに。逆の事をしてしまって、クルーエル大臣に知られた後が怖い。
烏羽玉先生も頷いた。
『代役を立てるしかないようですね』
「代役……また、アリエンに頼もうかな……!」
代役が決まりかけた時、ラボラトリーにハイヒールの足音が入ってきた。