第八話 芽々とガーディアン2
彼女は、エルヴィンの幼馴染みのブランダ先生だったのだ。こないだあった時と雰囲気が違うので分からなかったのだ。今日はかっちりとした感じで、異世界風の白衣を羽織っている。
「ああ、たまたま魔法薬をクリストファー様に献上に来ていて居合わせたのね。それで、原因究明を任されてね」
「それで、原因は分かったんですか?」と、芽々。
「実は、『虹色の長命薬』には問題が全くなかったの。『オオガマの薬草』と飲み合わせが悪いと思ったけど、そこは芽々ちゃんが考えていたみたいで『ヒヤヒヤ油』をうまく組み合わせて毒素を作らないようにしていたようだからね」
フームス隊長は、「ほう?」と、面白そうに目を丸くした。
「フッ、見たか!」
芽々は思わず胸を張った。
でも、これもアリエンのお蔭なんだけど……!
ありがとう、アリエン! ありえんくらい感謝してるよ!
「クリストファー様がお飲みになった時は全く問題がなかったから、芽々ちゃんの魔法薬が原因じゃなかったわけよ」
「それはそれは、失礼しました……!」
フームス隊長は素直に謝ってきた。
うんうん、分かればいいのだよ……!
ブランダ先生は続ける。
「それで、食後にクリストファー様はお倒れになったということは、料理に原因があると思うの。『オオガマの薬草』は『ぐるぐる巻きキノコ』とも相性が悪くて一緒に食べると猛毒の作用があるの。どうやらそれが原因みたいね。料理に入ってたわ」
また、オオガマの薬草か。そんな危険な薬草なんて飲まない方が良いのに。
やっぱりこれは――。
「それで、その解毒剤は?」
芽々は尋ねたけれど、ブランダ先生は頭を振った。
「あったら苦労しないわよね~」
「そ、そんな!」
じゃあ、クリストファー王子は助からないのだろうか。『延命の魔法薬』があるから死には至らない。でも、回復もしないからクリストファー王子はベッドから起き上がれないんじゃないか。
あんなに優しそうで国民の事を考えてくれそうな王子様なのに、未だ苦しまれているのか……!
「とにかく、その『ぐるぐる巻きキノコ』はめったに手に入らないキノコだから。その料理人が犯人ね! 料理人をすぐに連行して!」
「はっ!」
ブランダ先生の推理に、すぐさまガーディアンが動いた。美人に指揮されると、動き方もスムーズな気がするのは気のせいなのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい! 芽々は隊長に向き直った。
「フームス隊長さん!」
フームス隊長は、チラリと芽々を見た。
「なんだ?」
フームス隊長が真剣に聞いてくれなくても、芽々は真剣だった。
「私思うんです。料理人が犯人じゃなくて、それを指示した人が犯人だと! それに、クリストファー様の主治医はアヤシイですよ! 私が『虹色の長命薬』を持ってきたときも、何も調べずにクリストファー様に勧めていましたから! それに、『オオガマの薬草』なんて猛毒にも簡単になってしまう危険な薬を主治医が使うなんて変じゃないですか! どう考えても『主治医』と『主治医と料理人に指示した者』が犯人です!」
持論を並べ立てた芽々に、フームス隊長は瞠目していた。煙草の火がついた灰が地面に落ちた。靴の底で灰を踏みにじって火を消す。そして、ニヤリとフームス隊長は笑った。
「っ!」
その笑みがよくやったと褒めているように見えて、芽々は目の覚めるような思いがした。
「よし、主治医を連行しろ! それから、主治医と料理人に指示した怪しい奴を調べろ!」
すぐに残っていたガーディアンの部下たちが動いた。
恐らく、裏で指示しているのはクルーエル大臣だろう。
でも、用心して芽々は教えなかった。もし、クルーエル大臣が反撃してきたら、成す術がないからだ。でも、大方の事は伝えたので、うまく行けばクルーエル大臣は捕まるかもしれない。
「やるわね、芽々ちゃん……!」
「えっ?」
振り返ると、ブランダ先生は見直したように微笑んでいた。
「私は、まだ調べることがあるから……またね、芽々ちゃん!」
ブランダ先生は手を振ると、ハイヒールのかかとを鳴らして足早に消えて行った。
芽々も、手を振り返しながら嘆息した。
私は帰ろうかな~。お疲れちゃんですからね。
『盛り上がってますね~!』
ひと気のなくなったドロップ宮殿の庭に上半身のホログラムが浮かんだ。
今日は一段と楽しそうな烏羽玉先生だ。
「あれ? 烏羽玉先生。今頃、登場なの?」
もう、うまく行った後なんだけど……。
『芽々さん、すごいじゃないですか! あの人に書き換えられた私の異世界を次々とクリアしていくなんて!』
やけにしんどいと思ったら、この厄介ごとは謎の女の仕業だったわけだ。
でも、今回は烏羽玉先生の活躍はなかったようだ。
「ほぼ、アリエンのお蔭だけどね……! でも、解毒剤が作れないから、クリストファー様はどうなるのか……」
烏羽玉先生は、紙切れを持ったままヒラヒラさせた。
もしかして、それって……!
『ここに、解毒剤の調合レシピがありますよ~!』
楽しそうに烏羽玉先生は微笑んでいる。
「流石、この異世界の創造主様だね!」
ホログラムの調合レシピに芽々が触れる。すると、その調合レシピは実体化して、手のひらに残った。
『ドロップ宮殿の魔法機を借りて、ちゃっちゃと作ってしまいましょう!』
「うん! ちゃちゃちゃ~っと作ろう!」
芽々は、調合レシピを見ながらドロップ宮殿の一番端の別棟に向かったのだった。




