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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第三章】★*☆*★・・・・・・・★
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第六話 虹色の長命薬と冷感剤3

「お初にお目にかかります。エルヴィンです」

「芽々です。お見知りおきを」


 翌日の朝の十時頃。ドロップ宮殿のクリストファー王子の部屋を訪れていた。芽々とエルヴィンはクリストファー王子と握手した。


 クリストファー王子は、ドロティア王妃に似て美形で、色素の薄い金髪と青い瞳を持っている。歳は二十歳ほどだが、エルヴィンより少し上に見える。優しそうな顔つきだが、病弱なせいかどことなく儚げだ。


「エルヴィンと芽々が、私の病気を治してくれたそうだな。礼を言うぞ」


 クリストファー王子は、冬の陽だまりのような笑みを浮かべた。


「もったいないお言葉です。お顔の色が良くて安心いたしました」

「うむ」


「あの……!」


 そんなクリストファー王子を見ながら葛藤していたが、ついに芽々は声を上げた。


「どうした、芽々」


 クリストファー王子は、優しそうな笑みを芽々に向けた。

 エルヴィンが、保護者の顔つきで芽々を見守っている。


「私たちが作った魔法薬は、実は解毒剤だったんですが!」


 クルーエル大臣がクリストファー王子の魔法薬を作る邪魔をしていたことを芽々は説明した。それを聴いたクリストファー王子は難しい表情になった。エルヴィンも止めなかったので、構わず芽々は続けた。


「どうして、クリストファー様はクルーエル大臣をお疑いにならないのでしょうか? どう考えてもアヤシイじゃないですか!」


 クリストファー王子は、歓喜することも激怒することもなかった。


「芽々。私は、クルーエル大臣のことを信用している。証拠もないのに疑うのは良くない」

「そう……かもしれませんが……!」


 エルヴィンが首を横に振ったので、芽々は諦めた。これ以上何を言っても無駄だろう。クリストファー王子は、あの非情なクルーエル大臣を信用しきっているのだから。


「それで、今日は私に何か用があるのか?」


 気を取り直したクリストファー王子が愛想の良い笑みを浮かべた。

 芽々は心なしか安堵して、ラッピングした小ビンを紙袋から取り出した。


「クルーエル大臣から、滋養強壮の『虹色の長命薬』を届けるように言われたので、調合してまいりました」


 しっかりクルーエル大臣の名前で献上してやった。

 クリストファー王子は、クルーエル大臣の名前を出すと目を輝かせた。


「おお、そうか! 水を持って来い!」


 こ……この対応!

 ものすごくクルーエル大臣を信頼しきってるがな……!


「そ、それと、師匠のエルヴィンが作った『冷感剤』もお持ちしました! 暑い季節を涼しく乗り切れる魔法薬です……!」

「おお、それは素晴らしい! 一緒に飲もう!」


 しばらくすると、主治医が水を持ってやってきた。


「クリストファー様、お水をどうぞ」

「うむ」


 クリストファー王子は、そのまま芽々の魔法薬を飲もうとしている。

 エルヴィンが、慌ててその主治医に尋ねた。


「失礼ですが、薬の飲み合わせをお調べにならないのですか?」

「クルーエル大臣からの魔法薬でありますし、『虹色の長命薬』であれば、特に問題はございません」

「そ、そうですか……?」


 エルヴィンは、驚いているようだった。

 芽々も少しばかり驚いた。こんな雑なやり方で、主治医が務まるのだろうかと。

 クリストファー王子は、『虹色の長命薬』を飲み干した。


「クリストファー様、体の不調などはございませんか?」


 その段階になって、主治医が怪訝そうに尋ねた。

 って、おい……! こんな主治医で大丈夫なのか? 本当に!?


「ああ、大丈夫だ。体の内側から元気になるような感じがする! それに、この『冷感剤』は素晴らしいな! 涼しく快適だ!」

「そうでございますか……」


 芽々は、呆気にとられたまま主治医を見ていた。


「流石、クルーエルだな! 芽々にも感謝しているぞ!」

「え、あ、はい……」


★ ★ ★


 ひとまず役目を終えて、芽々とエルヴィンはラボラトリーに帰ってきていた。


 これで、クルーエル大臣からやっと解放された!

 しかも、クリストファー王子は、魔法薬で元気になったし!

 言うことないよね~!


「芽々の調合はちゃんとできていたらしいな。安心した」


 魔法機で『冷感剤』を調合しながら、穏やかにエルヴィンが笑っている。


「エルヴィン師匠の教え方が良いからです!」


 芽々は、小瓶に『冷感剤』のラベルをペタペタと貼っている。


「褒めても何も出んぞ」


 魔法機に『ヒヤヒヤ油 一〇滴』と『ミンミンの葉 二〇グラ』を入れて調合すると『冷感剤』が一ビンできる。


 芽々が作ると一個分しかできないが、手慣れたエルヴィンが作るとたまに三個分できる。なので、調合はエルヴィンに任せきりなのだ。


「今日は、冷感剤が五〇個売れたから、明日はもっと売れるかもな」

「最近、暑くなってきたからね~!」

「頑張って在庫を作らないとな!」


 その時、ドアが開いた。ドアチャイムの涼やかな音と共に複数の足音が入ってきた。


「今日は営業を終了したんですけどぉ」


 のんきな芽々だったが、エルヴィンだけは瞠目して状況に慌てている。


「め、芽々……!」

「どうしたの、エルヴィン?」


 彼らは異世界風の軍服のような制服を着ている。エルヴィンはこの制服を知っているらしいが。


「お前が芽々という女か」

「はい、ってあんたたち誰?」


 営業時間終わってるんだけどなぁ。


「私たちは、ガーディアンだ」

「ええっ!? ガーディアンって!?」


 あの、警察みたいな組織の!?


「そ、その、ガーディアンさんが私に何のご用なのでしょうか……!」

「クリストファー様がお倒れになった! クリストファー様に怪しげな薬を献上した罪で連行する!」


 クリストファー王子が、お倒れになった!? 嘘でしょ!?


「あ、あれは、クルーエル大臣から頼まれて!」

「嘘をつくな! クルーエル大臣はそんなことは頼んでないと仰っている!」


 クッ、そう来たか……!

 この状況、どうすればいいかなぁ。処刑だけは嫌なんですけど……!

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