第二話 クルーエル大臣の魔法薬
重苦しい気分を抱えながら、芽々はドロップ宮殿のクルーエル大臣の部屋を訪れていた。
出迎えたのは、クルーエル大臣の留守を預かるお付きの人たちだった。
しかし、呼び出しておいて留守とは……!
「こちらにおかけになって、しばらくお待ちください」
金色の部屋に圧迫されながら、芽々はクルーエル大臣の到着を待った。
「やあ、芽々さん」
暫くすると、クルーエル大臣が現れた。
芽々は立ち上がって、クルーエル大臣と握手した。
一見人当たりと愛想の良いクルーエル大臣だが、油断ならない人物だ。
「クルーエル大臣、お呼びでしょうか」
芽々は、何を言われるのだろうと戦々恐々していた。
「先日は、国王様とクリストファー様のご病気を治されたそうだな?」
やはり、クルーエル大臣はその事実関係を追求してきた。
「そ、それは、成り行きというかなんというか~……」
クルーエル大臣の交換条件の事とは逆の事をしてしまったからな……!
ま、まずかったかな……。
芽々の額から冷や汗が流れる。だが、クルーエル大臣は笑顔のままだった。
「いや、喜ばしいことだよ。残念ながら国王様はまたお倒れになったみたいだが」
芽々はムッとした。
国王様がお倒れになったのは、十中八九クルーエル大臣の仕業だろうがな。
「私は、クルーエル大臣が捕まると思っていたんですけどね……。そうなると、約束もチャラになるのに……いや、残念でした!」
クルーエル大臣は楽しそうに笑った。
「フフフ、芽々さんは面白い女性だ。では、こうしよう。こないだの交換条件は、私の新しい条件を呑んでくれたら実行しなくてかまわない」
「えっ!? 本当ですか!?」
毒薬を作らなくていいの!? やったぁ!
うっかり喜んでしまったが、そんなに簡単にクルーエル大臣が自分を解放してくれるとは思えない。新しい条件の内容が、とんでもない事だったら――。
疑っている芽々に、クルーエル大臣は微笑んだ。
「本当だとも。この材料とレシピで滋養強壮の魔法薬を作って、クリストファー様に献上してくれたら、約束をチャラにしてあげよう」
また魔法薬だ!
「滋養強壮の魔法薬って、病弱な人が飲む薬ですか?」
「そうだ」
クルーエル大臣は、魔法薬の材料と調合レシピが入った紙袋を芽々に押し付けてきた。芽々は渋々受け取る。
「もし、これが毒だったら私のせいになるんですよね……!」
処刑になってバッドエンドになるのは嫌なんですが……!
疑っていることが気に入らなかったのか、残念そうにクルーエル大臣は嘆息した。
「疑り深いね、芽々さんは」
心外だと言わんばかりだが、クルーエル大臣はうたがってなんぼだ。
「それは、普通の魔法薬の材料で毒じゃない」
「……本当ですか?」
毒じゃないという保証はどこにあるんだろう?
「なんなら、私の名前で献上してくれてもかまわないよ?」
「……分かりました」
クルーエル大臣の名前でしっかり献上しておこう。そうしたら、クリストファー王子は飲まないかもしれない。
待てよ……?
ホンモノの滋養強壮の薬に中身をすり替えておけば何も起こらないはず!
ニヤリ……!
芽々の『しっかり企んでます』といった表情が前面に出ていたのだろう。
クルーエル大臣は、笑いながら付け足した。
「ああ、中身をすり替えたりしたら、クリストファー様の主治医に訊くのですぐに分かるからね?」
「……!」
こんなにこの魔法薬にこだわるだなんて……。
やっぱり、何かあるんじゃないか!?
★ ★ ★
クルーエル大臣の部屋を退室した後、魔法薬の材料が入った紙袋の中を覗き込んで芽々は嘆息した。やっぱり受け取ってしまった……。
「烏羽玉先生、居る?」
『はい、居ますよ~』
声がしたので顔をそちらに向けた。
目の前に烏羽玉先生のホログラムが現れた。烏羽玉先生の上半身が、ぷかぷかと宙に浮いている。
『この材料が、滋養強壮の薬になるのか、毒薬になるのか。とにかく調べて見ないと分かりませんよね?』
烏羽玉先生は、しっかり傍観していたようだ。しかし、今回ばかりは頼りになると言わざるを得ない。
「確かめるって言ったって、エルヴィンには訊けないし……」
こんなことにエルヴィンを巻き込みたくないからね。
「かといって、クラウドは口が軽そうだしブランダ先生に話したらエルヴィンに筒抜けのような気が。頼りにできる人がおらんがな……!」
『適任の人が居るじゃないですか~』
烏羽玉先生は、にこにこしている。
芽々は、暫く考えていたが、可愛らしい男の子の顔が脳裏に浮かんだ。
「あっ! アリエンだ! 魔法薬管理師のアリエンに訊くのが一番いいんじゃないかな!」
『同感です!』
私は、アリエンがいる保管庫に足早に向かった。
『滋養強壮剤』とは、病弱な人が飲む薬です。養命酒みたいな薬。『滋養強壮剤』じゃなく、『強壮剤』が、男性を元気にする薬だそうです。




