第二話 森の中にある建物……?
森の中で突っ立っていても日が暮れると危ない。どこからか涼しい風が吹いてきた。今は冬ではないようだが、夜になると更に気温が下がりそうだ。仕方がないので諦めて適当に歩き始める。
数分間歩き続けると、運が良いことに、せせらぎが聞こえてきて川岸に出た。上流にあるような細い川だったが、流れる水は透き通っていた。喉が干からびそうだったので、川の水を掬って口に運んだ。甘くておいしい水だったからか、夢中で飲みすぎて少々むせる。
芽々は、口元をぬぐって立ち上がった。
「くっそー、あの医者め……!」
苦々しく呟くがどうにもならない。あの医者はどういうつもりで、自分をこんな森の中に放置しやがったんだか。モンスターではなくても、クマやワニが出て来ても危険だ。
「とにかくここから離れないと……」
芽々はひたすら川沿いを下って行った。丸い石がごろごろと転がっている平坦ではない道だったが、不思議なことに疲れる気配がない。
「今日の私ってスゴイ!」
ひたすら歩くこと数十分。今度は芽々のお腹が切ない声で鳴いた。待合室で朝から待たされていたから、昼ご飯も食べていない。
疲労感がないので頑張ると片意地張っても、流石に森の中で食糧調達なんてできそうにない。着の身着のままで、しかも道具も図鑑もない。どうやって野草やキノコを見分けられるというのか。縄文人のように火だっておこせない。いや、自分はなんで縄文人でもないのに、火など原始的におこさないといけないのか。
ああっ! どうすればいいの!
ついに芽々は音を上げて、異世界の空を睨んだ。青い空がぼやける。
異世界なんてクソくらえだ。自分が神様なら、とっくの昔にこのどうしょうもない異世界をブラックホールというゴミ箱に突っ込んで消滅させただろう。
「あれ……?」
その時、異質なものが見えた。コンクリートのような、森にはふさわしくない建物だ。
お椀を逆さまにしたような建物だった。一戸建ての家のような大きさだ。
でも、どうしてこんな辺鄙な所にひっそりと建っているんだろう。もしかして、人が住んでいるのだろうか。
芽々は、引き寄せられるように、その建物に近付いて行った。
心臓が警戒音をたてる。けれど、芽々は玄関のドアノブを掴んで回した。
鍵が開いている……!?
「こ、こんにちは~……」
どことなく、薬臭い。棚があり、薬のビンが無数に並んでいる。
カーテンが閉められた薄暗い部屋だ。誰も住んでいないのだろうか。
「なんか寒い……」
芽々は両腕をさすった。
その時の芽々は、後ろから近づく足音に気づいていなかった。
鈍い音がした。
「ッッッ!?」
あっという間に芽々は、何者かに昏倒させられてしまったのだった。