第十五話 ノーア社長の正体2
その時、ノーア社長の表情がだまし絵のように、険しい顔から笑顔に変わった。
「フッ、冗談だ」
「えっ?」
じょ、冗談……? 全然笑えないんですが……!
ノーア社長は顎をしゃくった。すると、部下が拳銃を仕舞った。そして、扉の定位置に駆けて行って、応援団長のように見張り始めた。
た、助かった……! 芽々はこっそり脱力した。
「私は、運送屋の荷馬車屋を経営している。だからか、不磨の森よりもヤバい区域の採取をある人物から命じられた。断り方が悪かったのか一触即発の空気になった。ついにガーディアンに一網打尽にされてしまったわけだ。なんとか、解毒剤の作り方の調合レシピを手に入れたものの、材料が手に入らなくて作れないと来た!」
そんなことがあったのか。いや、災難だな。
芽々は、そんな事を思いながらノーア社長の熱弁を聞いていた。
「そんなときに、私の難病を治す白衣の天使が現れた。それが芽々さんだ!」
ノーア社長は、熱を帯びた目で芽々を見た。
「あ、あれは……!」
振り返ると、ジト目の半笑いでエルヴィンが芽々を見ていた。
何かな、その目は! 私は人助けをしたんだぞ!?
「芽々さんになら、この状況を何とかできると思ったのだ。任せて正解だったな」
「それはどうも……魔法薬を作ったのは、ほぼエルヴィン師匠ですがね……!」
芽々はエルヴィンを立てたが、ノーア社長はミュージカル調に叫んだ。
「フッ、芽々さんは私の天使だ!」
「あ、あの……!?」
そこからは一気に事態が好転した。ノーア社長が小切手にペンを走らせた。
「これは、一億ティアの小切手だ! 受け取ってくれ!」
「確かに、受け取りました! これが領収書です!」
エルヴィンが、シッカリ受け取って領収書を渡している。
「うむ、確かに!」
ノーア社長は確認して部下に領収書を渡した。
「芽々さん、約束ですから不磨の森の材料を永久に無料で提供しましょう!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
よっしゃあ! 風邪薬の材料をタダでゲットぉ! しかも、タダで不磨の森の材料を使い放題だ!
「また、私も芽々さんを頼ることがあるかもしれない。芽々さんも私を頼ってくれたら嬉しい」
ノーア社長が、芽々に迫ってきた。
「それは、結構です! 芽々、帰るぞ!」
「うん!」
エルヴィンが横から芽々の手を取って、社長室を飛び出した。そして、意気揚々と帰路についたのだった。