第十二話 アリエンと魔法薬の材料2
「アリエン君、この材料は次にいつ入ってくる予定かな?」
クルーエル大臣は、涼しげな目を細め余裕綽々でアリエンに尋ねた。
アリエンは、ハシゴから降りた。そして、入荷予定表を手に大慌てでこちらにやってきた。
「え、えーと、半年後です……」
アリエンの答えを聞いて、クルーエル大臣は楽しそうに一笑した。
「さあ、どうする? エルヴィン君」
芽々は不安になって、エルヴィンの袖を引っ張った。
「エルヴィン、どうするって……」
エルヴィンの額から、冷や汗がしたたる。
「お手上げですよ、私でも、ね」
「ええ~っ」
「ハハハハハ! 諦めが良いのは良いことだよ、エルヴィン君! では、また」
クルーエル大臣は大笑いして、楽しそうに去っていった。
でも、クルーエル大臣って、一体何しに来たの?
もしかして、ドロップ宮殿の私たちを観察しているのか?
「クルーエル大臣、まじムカつく。まじありえん!」
アリエンは、手に持っている入荷予定表を丸めて捨てそうな勢いで怒っている。
そうだ、今一番の問題は材料がない事だった……!
「ああ~! どうしよう! クルーエル大臣に泣きついても無理かな!?」
エルヴィンが険しい顔になった。
「芽々、馬鹿なこと言ってんじゃないぞ」と、エルヴィン。
「冗談だよ! でも、どうすりゃいいんだぁ!」
「まあ、待て。手がないわけじゃないさ!」
エルヴィンは意地悪そうな笑みを浮かべて、ひとり悦に入っている。とても、芽々のように焦っているように見えない。
「アレ、エルヴィン? さっきはお手上げって……!」
「馬鹿正直に答えるわけないだろ?」
「流石、エルヴィン師匠~!」
エルヴィンを初めて芽々が師匠と仰いだ瞬間だった。
やっぱり、エルヴィンは頼りになるなぁ!
「アリエンさん、貰いたい魔法薬があるんですが、構いませんか?」
「えっ? 良いけど……」
アリエンは目をぱちくりさせた。
エルヴィンは、その魔法薬をアリエンから受け取った。そして、芽々と一緒にエルヴィンのラボラトリーに帰ってきた。
「ねえ、エルヴィン。見たこともない魔法薬をこんなに貰ってきてどうするの?」
木の大箱に、二つ分も。だから、帰りは馬車じゃなく荷馬車で帰ったんだ。
「解毒剤の類ばっかりだけど……」
「ああ、そうだな。『猛毒キノコ解毒剤』と『猛毒ペイルアンテッド解毒剤』に『大麻痺毒の中和剤』……これをなんで選んだのか、芽々は分かるか?」
どれも大ビンだ。合計で、十五ビンある。『猛毒キノコ解毒剤』と『猛毒ペイルアンテッド解毒剤』は、錠剤だが、『大麻痺毒の中和剤』は粉薬だ。
「う~ん、エルヴィンの事だから、クルーエル大臣の盲点を突いたのは分かるよ」
「ほう?」
エルヴィンの眼が面白そうに閃いた。
芽々は大ビンをくるくると回して、考え込む。
「解毒剤ってことくらいしか……ちょっと待てよ? もしかして……!」