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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二章】★*☆*★・・・・・・・★
18/102

第七話 ノーア社長の難病と交換条件

 芽々は烏羽玉先生の奥さんから貰った地図を頼りに、王都ファンティアの町はずれにある大きな建物まで来ていた。敷地の中には、荷馬車が沢山停まっていた。芽々は荷馬車の御者台ぎょしゃだいに乗っている人の良さそうなおっちゃんに声をかけた。


「すみません。ノーア社長っているかな?」

「ああ、社長は会社の横の屋敷にいるよ。あの茶色い屋根の!」

「ありがと、おっちゃん!」

「おう!」


 手を振っておっちゃんと別れた。芽々は気を取り直して、建物の敷地の中に入って行く。

 敷地の中は、芝生が敷き詰められており、剪定せんていされた木々が植わっている。その中を物珍しそうに見回しながら歩いていく。


 会社の方には人が沢山いたが、こちらの建物の方は喧騒からかけ離れている。木々がサワサワと鳴っている。


「ここか! すみませ~ん」


 ドアが開いていなかったので、金の獅子のドアノッカーをガツンガツン鳴らしていると、後ろで足音がした。


「人の家の敷地内で何をしている? お前は何者だ?」


 人の家の敷地内? この人は一体誰だろう?


 しかし、この若い二十代ぐらいの男はイケメンである……!

 銀髪で涼しそうな碧眼の無表情のイケメンだ! うむ!


「私は、調合師の卵の芽々です!」


 失礼にあたらないように挨拶をした。その男は怪訝そうな顔つきになった。


「調合師の卵……? その芽々さんが一体何の用かな?」

「もしかして、ノーア社長ですか?」

「ああ、ノーアは私だ」


 ノーア社長はまったく表情が変わらない。やっぱりこれは――。


『荷馬車屋のノーア社長は、難病にかかっておられます』


 烏羽玉先生の奥さんは極秘情報も教えてくれた。そして、彼女は私にノーア社長の難病を治す魔法薬を手渡して来たのだ。


「実は、ノーア社長の病を治す薬をお持ちしたんですが……!」


 難病を治す薬を簡単にくれるというのは変だと思ったが、創造主の妻だから協力してくれているのだろうと安易に考えていた。


「ほう……私の病をねぇ……?」

「はい!」

「私の病を知っているとみえるが……」

「はい、『人形無心症』という難病でしたよね」

「ああ、そうだ。何をしても心が揺るがない。何をしても何を食べても何も感じない。手足の感覚もない。冷たいのも温かいのも分からない」


 そして、ため息を吐いて芽々に視線を合わせた。


「私は人形だ……!」


 や、病んでるなぁ。私は喉の塊を呑みこんだ。


「ご、ご安心ください! この特効薬をすべて飲み干せば完治します!」


 これは、ドリンクタイプの魔法薬だ。

 腰を抜かしかけたけど、落として割らないで良かった~!


「ほう……? 買ってやろう。いくらだ?」

「御代は構いません。でも、その代わりに、不磨の森の材料を安く分けてもらえませんか!」

「考えておいてやろう」


 いつの間にか私の近くまで来ていたノーア社長は、私の手から勝手に魔法薬の瓶をもぎ取った。


「考えるって……ああッ!」


 ノーア社長は、あっという間にそれを飲み干していた。


「おお……っ! これはッッッ!」


 ノーア社長の手から、空瓶が転がり落ちる。空瓶は芝生の上に落ちたので割れなかったが、契約もしてないのに飲み干されてしまった。


 彼は、ひどく感動したように芽々を見て打ち震えている。なんか、ヤバい震え方で恐怖を覚えるのだが。


「な、治りましたか……?」


 芽々の戦々恐々とした問いに、ノーア社長は三度頷いた。


「ああ、芽々の顔はへちゃだが、大変良いへちゃだと思ったぞ! 私好みのへちゃだ!」

「全然嬉しくないわッッッ!」

「それに、風を感じる。春の心地よい日差しを感じる! 私は生きているぞぉおおお!」

「よ、良かったですね……!」


 なんだか、ミュージカルを見ているような気分だ。ノーア社長は、そのうちに歌いだすんじゃなかろうか。


「そ、それで、条件の事なんですが……!」

「うむ。こちらも条件がある!」


 目が覚めたように芽々は目をしばたいた。


「ハァ!? ちょっと待ってくださいよ! 条件をのんでくれるというから、私は代金を貰わなかったのに……!」


 でも、烏羽玉先生の奥さんから貰ったから、元手はタダだけど……! もっとふっかければよかったかな。


「フフフ、私の条件をのんでくれたら、芽々の師匠のラボラトリーに永久に不磨の森で採れる材料を好きなだけ無料で提供しよう!」

「本当ですか!?」


 つまり、ノーア社長の条件をのめばタダだ。

 タダだと喜んでいる芽々に、ノーア社長はニタリと笑った。


「ああ、本当だ」

「じゃあ、そのお話をお受けします!」


「では、ある病気の魔法薬を千人分作ってもらいたい」

「せ、千人分も!? 流行り病ですか?」

「恐らくそのようなものだろう」


 病名ははっきりしないのか。

 病名が分からないのに魔法薬が作れるのだろうか。エルヴィンならできるかもしれないけど……。


「えーと……その病気の名前って分からないんですよね?」

「いや、その病気の名前は分からないが、特効薬の作り方は分かる」

「えっ……?」


 芽々は眉をひそめた。なんだろう、この違和感――。

 構わず、ノーア社長は懐から紙切れを取り出した。


「ここに記してあるものが、特効薬の作り方だ。これを千人分お願いしたい。勿論、これは代金を言い値で払ってやる。そして、交換条件ものんでやろう」


 私はようやく違和感の正体に気づいた。


「ちょっと待ってください! 何か変ですよね? 病気の名前がどうして分からないのに、特効薬の作り方がお分かりになるんですか? ノーア社長、私に何か隠してませんか?」


 ノーア社長は別人のように大笑いした。


「バレたか! 芽々さんは、研究調合師の卵だけあるな」

「褒めても誤魔化されませんよ!」


 ノーア社長は、クルーエル大臣のように曲者だ。


「私の病気を治せた芽々さんならと思って頼んだんだよ」


 でも、それはノーア社長の言い訳にはなってない。

 その魔法薬は貰ったものだと言った方が良いのか悪いのか。

 胡散臭そうな目で見ていた芽々に、ノーア社長はついに白旗を掲げた。


「参った参った。芽々さんには降参だよ。実はな、材料費が滅茶苦茶高いんだ。というか、ドロップ宮殿でしか手に入らないような材料がこの調合には必要なんだ」

「ええ~っ!? な、なんじゃそりゃ~!?」


「でも、君はこの話を受けてくれると言ったからね」

「えっ、あ、あれは!」


 し、しまった!? 話半分に引き受けてしまった。

 ノーア社長はニヤリと笑った。


「約束は守ってもらうよ、芽々さん」

「ええ~っ!」


 どんどん問題が深刻化していくようで、芽々は眩暈を覚えるのだった。

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