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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二章】★*☆*★・・・・・・・★
17/102

第六話 烏羽玉(うばたま)先生の奥さんの妙案

 結局、良い考えが浮かばずに一夜が明けた。芽々はのろのろと身支度をして、ダイニングキッチンに顔を出した。


「おはよーって、今日もパン一枚……! クッ!」

「バターもあるぞ」


 悪びれた風もなく、エルヴィンは笑顔でバターを差し出した。焼きたてのパンにバター。用意してくれるだけでもありがたい。でもな……!


「朝昼晩、パン一枚ずつ! 栄養不足になるわ! お肉を食わせろ!! お肉を!」


 流石に朝昼晩はキツイのだ。芽々は元居た世界では、もっとまともな食事を摂っていた。コンビニ弁当でもスーパーのお弁当でも、もっとバリエーションに富んでいる。


「ねえ! パンだってもっと種類があるんじゃないの!? それを、食パン一枚……!」

「食パンの方が、安くて何回も食べれるからな!」

「……」


 エルヴィンは、王都ファンティアに来てから自給自足を止めたので、普通にパン屋でパンを購入している。食パンが一番お買い得というわけなのだ。


 世界には、食べれない人もいるんだ! そう考えてみても、普段との食事の落差がひどくて泣きそうだ。私、人間ができてないのかな……。


「不安ならこれだ!」


 エルヴィンが、小瓶を差し出した。

 チッ、また魔法薬か! 調合師め!


「なに、この怪しげな魔法薬は!」


 私は受けとって、ラベルを眺めた。「疲労回復!」「これ一粒で階段千段!」「マムシ並みのスッポン力!」宣伝文句がラベルの中で元気に踊っている。


「栄養補給剤だ。見る見るうちに元気になるぞ!」

「異世界のサプリメントか! 異世界のは私の世界のと違ってアヤシさ抜群だな! まあ、エルヴィンの作った薬は安全だろうけど……」


 でもな、サプリメントに頼りすぎるとよくないってテレビで言ってたぞ! 喉まで出かかったが、いつもと違う装いのエルヴィンにようやく芽々は気付いた。


「……エルヴィンどこか出かけるの?」

「ああ、ドロップ宮殿にな」

「ドロップ宮殿!?」


 道理で異世界の服装にしてはピシッとした服を着ていると思った。

 いや、問題はそこじゃない。なぜ、ドロップ宮殿にエルヴィンが呼ばれたかだ。

 ま、まさか!?


「もしかして、クルーエル大臣に呼ばれたの!?」


 エルヴィンは半眼になった。


「……クルーエル大臣に大臣に呼ばれたらなんかまずいのか?」


 芽々の額に冷や汗が伝ったのは、どうやらバレてないらしい。

 芽々は平然を装った。


「ううん。また、何か条件を吹っ掛けられるかなと思っただけ……!」

「ふーん。俺が呼ばれたのはドロティア王妃様にだけどな」


 ドロティア王妃? 王妃ってことは、国王様の奥さん。

 ってことは、クリストファー王子のお母さん!?


「わ、私も付いて行って良い?」

「いや、留守番を頼む。風邪薬の妙案が浮かんだら教えてくれ」

「チッ」

「じゃあな~」


 エルヴィンは意気揚々と出かけて行った。

 せめてもの抵抗にパンにバターをたっぷり塗ってやった。


 レジの横に座ってパンをかじっていたけれど、妙案が浮かぶはずもない。そして、お客も来ない。


「はぁ……」


 時計の針がチクタクと鳴っている。パンを食べ終わった芽々は、薬棚の整理をしようと立ち上がった。


「むー。やっぱり、風邪薬か……。クラウドは一つの材料費を三〇〇ティアで作れるから、一つ作る材料費を三〇〇ティア以下に抑えなきゃダメだってことだよね」


 エルヴィンは、以前は材料をタダで取ってきて作っていたって言っていた。

 材料費がタダなら、確実にクラウドに勝てる!

 でも、不磨の森への交通費が――。


「待てよ。不磨の森にいたとき、鳥になる薬を飲んで来たってエルヴィンが――」


 芽々は急いで、薬棚の瓶を指で確かめて行った。


「よっしゃあ! あった! 鳥になる薬が二錠あれば、行きと帰りで帰って来れる!」


『無理ですね!』


 芽々は聞き慣れない女の声にギョッとして振り向いた。


「あ、貴方は!?」


 そこには見知らぬ女がいた。彼女は、烏羽玉先生のようなホログラムを使い宙に浮いている。当然のように、堂々としている。


『こんにちは、芽々さん。私は、烏羽玉の妻です』


 女はぺこりとお辞儀した。そしてにっこりと微笑んでいる。品の良さそうな人だ。


「お、奥さん!? 烏羽玉先生の!?」

『はい。主人がいつもお世話になっております』

「こ、こんにちは~……こちらこそ、いつも先生にはお世話になりっぱなしで……」


 烏羽玉先生には、遊ばれているような気がするけど、そこはご愛嬌だ。

 こんなカンジの良さそうな人が奥さんなら、烏羽玉先生も幸せだろう。夫婦仲が良くて良いですね、みたいな。


「ええと、どうして鳥になる薬じゃ無理なんですか?」


 沈黙が怖くて、私は会話を繋いでいた。烏羽玉先生の奥さんは神妙に頷いた。


『鳥になる薬は大きな荷物を運べません。よって、大量に採った材料は運べないでしょうね』

「じゃあ、ちょっとずつ持ち帰るとか!」

『ラベルを見てください』

「ええと、鳥になる薬……一〇〇錠入りで……い、一億ティア!?」

『これじゃあ、元が取れませんね』

「二錠だけでも赤字になるわ! あとは、転生の薬もペイルアンテッドを倒すのにいるんだよね? ああ、もう! どうすればいいの!?」


 烏羽玉先生の奥さんが、ニタリと笑った。

 な、なんか、雰囲気が変わったような……?


『良い情報をさしあげましょうか?』

「う、うん……」


 なんか、嫌な予感がしそうな? なんてったって、烏羽玉先生の奥さんだから、ね。


『この地図を差し上げます』


 奥さんからホログラムの地図を受け取ると、それは普通の用紙に実体化した。

 私は面白がって用紙を確かめていたが、ピンクの蛍光ペンで塗られている文字に気付いて、瞬きした。


「えっ? 運送屋『荷馬車屋』? これって……?」

『問屋に荷馬車で運ぶのと、材料を集めて来るのが、運送屋の主なお仕事です。ですから、問屋で買うのではなく、運送屋から直に買い求めれば、もっとお安く手に入るのではないかと』

「な、なるほど~!」


 烏羽玉先生の奥さんは、私の事情を把握しているらしかった。

 しかもこの奥さん、頭が良い。


『それでですね。旦那からの新情報があるんですよ!』

「新情報!?」

「それはですね……」

「ふむふむ!」


 私は、烏羽玉先生の奥さんから情報を仕入れた。


「よし! 行くか!」


 そして、意気揚々とその地図を頼りに私は出かけて行ったのだった。

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