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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二章】★*☆*★・・・・・・・★
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第四話 ダリアス問屋とクラウド先生

 波のように人々の話し声と笑い声が押し寄せている。音楽隊が演奏して通りを華やかせている。王都の城下町は人でごった返していた。流石、王都ファンティアだ。


 二週間前のことだ。芽々とエルヴィンは、荷馬車で王都ファンティアまでやってきた。歩道とは別の道を馬車が走っている。


エルヴィンの言うことには、馬のエサに魔法薬を混ぜると競走馬並みに疲れないで走るんだそうだ。だから、この異世界では自動車のような乗り物は開発されなかったようだ。競走馬並みに馬車が走れば、自動車は不要だからだ。この世界はなんでも魔法薬だ。


 芽々は、エルヴィンに腕を引かれるまま通りを右に曲がった。すると、ひと気が無くなっている。ここは裏通りなのだろうか。


「芽々……!」


 エルヴィンが振り返った。

 妙にエルヴィンの荒い息遣い。

 人通りの少ない道に、エルヴィンという変質者――。


 芽々は、大慌てでエルヴィンの手を引き剥がそうとした。


「エルヴィン! 私、そんなつもりはないんで!」

「俺は、そんなつもりだ! 真面目に考えているんだ!」


 ええ~っ!? 私の事をそんなに真剣に考えてくれてたの~っ!?

 でも、やっぱり嬉しくないっ!

 人の料理に薬を盛る奴なんて、いくらイケメンでもお断りだっ!


 エルヴィンが神妙に頷いた。


「このひと気のない裏通りにある、『バリ安問屋』だ……」

「は……? ば、バリ安問屋……?」


 芽々は、エルヴィンの手を引きはがすのを止めて目をぱちくりさせた。

 ひと気のないバリ安問屋? いかがわしい事とは違うような?

 今になって話が微妙に食い違っていることに気付いた。


「あ、あのぅ……?」

「ああ、そうだ。正式名称『ダリアス問屋』。魔法薬の材料がすごく安い。俺が調べたところ、王都ファンティアで一番安い。だからか、別名『バリ安問屋』と言われている」

「……」

「やっぱり、あのダリアス問屋は客の寄せ方を心得ているな」


 エルヴィンは、最初から風邪薬が売れないからと話していた。芽々が勝手に勘違いしていただけだった。原因を調べることは極自然な流れだ。芽々は脱力したが、妙にホッとした。


「今から、値段の交渉に行くぞ!」

「う、うん……!」


 早速、ダリアス問屋の店の中に入って行った。ひと気はまばらだが、本当にこれで繁盛しているのだろうか?


 魔法薬の材料を手に取ってエルヴィンが匂いを嗅いでいる。

 彼の姿を見つけたダリアス問屋の店主がもみ手しながら姿を現した。

 太っている中年の男店主で、人の良さそうな顔をしている。


「これはこれは、エルヴィンラボラトリーのエルヴィン先生じゃないですか!」

「こんにちは、ダリアスさん」


 ダリアス問屋のダリアスさんか。そのまんまだな。

 ダリアスは、もみ手をしている。恵比須顔が福々しい。


 エルヴィンとダリアスが楽しそうに世間話をしているので、私は店内を見て回っていた。

 材料の入った木箱が並んでいる。元の世界のお茶屋さんも、こんな感じで茶葉をケースに入れて並べていた。


「実は『ベコベコの実』と『グリングリンの葉』を見に来たんだけど……」


 一通り話を盛り上げた後で、エルヴィンが本題に入った。


「ええ、ございますよ」


 笑顔のまま、ダリアスは場所を手で示した。


『ベコベコの実』と『グリングリンの葉』は、『風邪薬』の材料だ。木箱に入って並べているのがそうらしい。グリングリンの葉は、大きな葉が乾燥したものだ。ベコベコの実は、マンゴーのような黄色い木の実をサイコロ状に切ったものを乾かしていて、一種のドライフルーツみたいになっている。恐らく、日持ちするようにしているのだろう。


『ベコベコの実一〇〇グラ』で、『四五〇ティア』。

『グリングリンの葉大一枚』で『一五〇ティア』。


 風邪薬を一つ作るのに、『六〇〇』ティアかかるのか。ふーん。

 エルヴィンに初めて調合を見せてもらった時の事を、芽々は思い出していた。

 暇を持て余した芽々は、それから物珍しそうに店内の薬の材料を見て回った。材料というだけあって、美味しそうなものは全くないところが残念だ。


「ダリアスさん、『ベコベコの実』と『グリングリンの葉』、もう少し安くならないかな?」


 材料を手に取ってエルヴィンは質を確かめている。

 ダリアスは、困って苦笑いしている。


「エルヴィン先生、『六〇〇ティア』以上は安くなりませんね~。ホラ、見た目も綺麗だし、質も良いでしょ? これ以上下げると赤字になってしまいますよ~」


 大げさすぎるぐらい困った風を装っている。

 芽々とエルヴィンは顔を見合わせた。


「仕方ない、帰ってから策を練るか」

「うん、そうだね」


 退散しようとした時だった。


「ダリアスは、居るか!」


 誰かが勢いよく店の中に入ってきたものだから、芽々は突き飛ばされてしまった。


「うわっ!」


 尻餅をついたところで、その客は芽々を見下ろした。


「ん……? お前は何をしているんだ……?」

「はぁああああ!? 突き飛ばしてから、何やってんだはこっちの台詞だ!」


 一体、この自己中男は何なんだ!?


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