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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二章】★*☆*★・・・・・・・★
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第三話 売れない風邪薬

 芽々とエルヴィンは、三日かけて王都ファンティアに引越した。二週間が経過する頃になると、新しいラボラトリーも通常運営できるようになっていた。王都のラボラトリーは、薬局のような役目も果たしている。まだ客は少ないが、エルヴィンの出かけている間、芽々は店番をしている。


 引っ越ししてからというもの、毎日のように芽々は荷を解いて、以前のラボラトリーから運んできた魔法薬の瓶を新しい薬棚に並べている。今日も今日とて、エルヴィンが買い出しを楽しみ腐っている中で、超単調な片づけを芽々は一生懸命にしている。


「フゥ……!」


 芽々は、溜まっている鬱憤をため息に変えた。そして、真新しいラボラトリーの中を見渡した。ラボラトリーは、白壁が特徴の真新しい部屋だった。


 奥には、私の部屋が一つと、エルヴィンの部屋が一つ。そして、店舗を兼ねたラボラトリーの部屋が一つ。ダイニングキッチンが一つ。それらは全てドアで仕切られている。


 ラボラトリーと一緒になった店は二〇畳ぐらいで、エルヴィンの部屋は六畳くらいだ。芽々の部屋も六畳ぐらいで、ベッドとクローゼットが置かれているだけの簡易的な部屋だ。異世界に着の身着のままで来た芽々の荷物がないのは当然だろう。


 ラボラトリーには薬棚がずらりと置かれてあるので、意外と手狭に感じる。この間は魔法機を中央に設置するのに、三時間もかかったのだ。芽々も手伝った。元居た世界では働いたら給料が出たが、異世界ではエルヴィンの弟子なので無報酬だ。ちゃんと給料を払ってほしいが、今のところ我慢している。


「ただいま!」

「あ、エルヴィン、おかえり~」


 店の方からエルヴィンが中に入ってきた。どうやら、買い出しから帰ってきたらしい。ラボラトリーを抜けると、薬局の店内になっている。芽々は現在ここに居て、薬棚の整理と店番を兼ねている。


 断っておくが、店内にはエルヴィンの怪しげな薬は並んでいない。『風邪薬』や『サプリメント』などの薬局で見かけるような一般的で安全な魔法薬だ。もし、仮に『自白剤』や『硬直君一号改良版』などが普通に売られていたら、ガーディアン沙汰になるらしい。


 でも、その元の世界で言う警察のような組織――ガーディアンからは、自白剤の注文がたまに入るらしい。なので、安全に使うのを条件にエルヴィンは売っているようだ。『鳥になる薬』はエルヴィンが並べるなと言ったので並べていない。何故かは分からないが――。


 エルヴィンは、店内を見回している。


「芽々、あんまり客が来ないのはなんでだと思う?」


 あんまりというより全然来ないのだが。

 現在も、店内には客の影は一つもない。エルヴィンと芽々だけだ。


「病気にならないとお客さんは魔法薬を買わないんじゃないかな~!」と、なるべく明るく芽々は答えた。


「いや、王都ファンティアでは、現在、春風邪が流行ってる! 本当は、飛ぶように風邪薬が売れてもおかしくないんだ!」

「えっ……?」


 ラボラトリーの儲け時なのに全く売れないなんて、一体全体どういうことだろう?

 芽々は、薬棚の方に行って風邪薬を探した。


 ん~、あった!


 まだ、五個ほど在庫がある。

 現在、一個つまり一ビン辺り『一二〇〇ティア』で売っている。

 『ティア』というのは、ファーグランディアの通貨だ。


 風邪薬の魔法薬の入った瓶を一個手に取って、エルヴィンの方へ芽々は戻ってきた。


「風邪薬の在庫は切れてないよ? もしかして、風邪薬って値段が高いの?」

「いや? 初歩的な調合で、材料も安価だ。だから、値段は魔法薬にしては安い方だ」


 エルヴィンは、芽々から風邪薬を受け取ってそのラベルを見ている。ラベルには、風邪薬という文字と値段が書かれてある。


「でも、以前は不磨の森が裏にあったから、材料取ってきてタダで作れていたんだ。だからかなり売れていた。今考えれば、丸儲けだったな」

「ふーん……」

「でも、王都ファンティアに来てからは、問屋から薬の材料を仕入れているから、値上げせざるを得ないだろ?」

「それで、一個『一二〇〇ティア』なんだね」

「でもな、王都ファンティアのラボラトリーで一番安かったら飛ぶように売れるはずなんだ。こんなに春風邪が流行してるからな」


 この異世界では、殆ど調合師が作る魔法薬を飲めば、すぐに病は治癒されるらしい。その代り、病気が蔓延している世界だという。


 現在は春風邪が流行しているのか。


 でも、店番をしていても閑古鳥が鳴いていた。他の魔法薬を買いに来る客もいるが、風邪薬に関してはサッパリで一個も売れないのだ。


「なんで売れないんだろ……?」

「そうだなぁ。最初は、『二〇〇〇ティア』で売っていたけど、全然売れなかったからなー。それで、苦肉の策で王都の問屋を回りに回って、一番安い材料を仕入れて、『一二〇〇ティア』にしたわけだが……」

「それでも、全然売れないんだよね……!」

「よし!」


 その時、芽々を見てエルヴィンが頷いた。


「芽々、行くぞ!」

「えっ、ど、どこへ!?」

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