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天才調合師の魔法薬には事情がある!  作者: 幻想桃瑠
★・・・・・・・★*☆*★【第二章】★*☆*★・・・・・・・★
12/102

第一話 王都ファンティアへのお引越し

 エルヴィンが全快した翌日のことだ。


 クルーエル大臣が突き付けてきた条件の事をエルヴィンにいつ切り出そうかと、芽々は思案に暮れていた。

 クリストファー王子を暗殺するための解毒剤の効かない毒薬を制作しなければならない事は、エルヴィンには一切教えるつもりはない。恩を受けたので彼を巻き込みたくないと本心から考えている。


 でも、エルヴィンに王都ファンティアに引っ越ししてもらった後でラボラトリーを彼に開業してもらわなければ、クルーエル大臣の一つ目の条件を呑んだことにならない。


 あー、でもなぁー……。


 クルーエル大臣に関わったことをエルヴィンに告白することが、とがめられそうで躊躇してしまう。


 その上、王都ファンティアに行けば面倒事に首を突っ込まなければなりそうで、まったく乗り気じゃない。大体、王都ファンティアなんて、クルーエル大臣のホームグラウンドじゃないか。敵地に赴けば、何が待っているか分からないってもんだ。


 話を切り出せないまま憂鬱な気分と戦っているうちに、ついに朝食までエルヴィンにごちそうになってしまった。

 エルヴィンの朝食は、意外に美味で普段ではなかなか味わえない魅力に富んでいた。


 野草のサラダに、野鳥の卵のハムエッグ。更には、エルヴィン特製の自家製のふわふわのパン。ほぼ自給自足のたくましいメニューだ。


 野鳥の卵は、野生の鳥だからか黄身の味が濃かった。野草も普段の野菜より味がある。ハーブのようで青い香りと苦みの強い味がするが、珍しさも手伝って美味しく食べられた。


 添えられたソテーされたキノコは、木の香りが強くて味もしっかりしている。スーパーで売っているキノコとは一味違っていた。そして、驚いたのが自家製のパンだ。全粒粉を使っているが、パン屋が負けるぐらい、ふわふわで美味いのだ。


 芽々は、すっかり平らげてしまった。その満足感から後は野となれ山となれという心境に陥っていた。エルヴィンが食器を洗っている最中に、いい塩梅で芽々は床と一体化していた。まるで、熱々のトーストの上に乗っているチーズのようにとろけてしまいそうだ。


「あ~。問題は解決してないけど~、まあいいか~……」


 エルヴィンが何も訊いてこないのを良いことに、今の心境をうっかり吐露してしまった。

 すると、流しの方でお皿が割れる音がした。


 芽々はギョッとした。エルヴィンが、うっかり食器を割ってしまったようだ。

 やっぱり何か手伝えばよかったか。

 慌てて身を起こそうとしたところ、異変に気づいた。


「あ、あれっ!?」


 芽々の額から冷や汗がしたたり落ちる。


「身体が動かない……!?」


 この時になって、全身が固まったように動かないことに気づいたのだ。

 エルヴィンは、芽々に後姿を向けて黙々とシンクに散らばったお皿の破片を拾っている。


「ハッ、これは、まさか……!」

「そうだ……『身体硬直君一号改良版』をお前に飲ませた……!」


 エルヴィンの後姿が喋った。


「し、しまった! その存在を忘れていた!」

「……何がしまっただぁ? その存在を忘れていただぁ……?」


 また、芽々は薬を盛られてしまったようだ。


「フンッ!」


 エルヴィンが、濡れた台拭きを乱暴にシンクに叩きつけた。

 そして、芽々の方に戻ってきた。


「いっ!?」


 エルヴィンはピンクのフリフリのエプロン姿で、仁王立ちになっていた。

 あまりの事に頭痛と眩暈が一緒になって襲ってきた。


「お前はどこぞの新妻かっ! 私は亭主になった覚えはないぞっ!」

「何の寝言を言っているんだ……?」


 芽々の動揺が露わになったのを良いことに、エルヴィンは目を細めて顎を上げる。


「芽々、お前……」

「な、何か怒ってやしませんか!?」


 何なんだ!? この、サスペンスな空気は……!?

 私はまな板の鯉なのか! ついに、エルヴィンに調理されてしまうのか!

 エルヴィンが目をすうっと細めた。


「お前……。俺の作った自白剤を捨てたな……?」

「あ、あああああ、アレねっ! 鳥さんのエサにしたら全部綺麗~に食べてくれたよ!」


 またそれを自分に使われてしまったら、隠していることも全てベラベラと暴露してしまう。秘密裏に処理しなければならない事なのに、全く意味が無くなってしまうのだ。だから、あの錠剤をこっそりと昨日の夜に始末していた。


 しかし芽々は、身体硬直君一号改良版を捨てるのを忘れていたのだ。これでは、答えれるまで逃げようがない。芽々がしくじってしまったことは火を見るよりも明らかだった。


 芽々の気転の効く所は、昔からよく気が回るものだと家族から一定の評価がある。

 しかし、芽々はつめが甘いのが難点だから気を付けなさいと家族から注意されたことがある。


 しかし、エルヴィンは被害者ではない! 芽々は、エルヴィンを助けた恩人のはずなのに、この加害者のような扱いはなんなのか!


 しかし、エルヴィンは腕組みしてしみじみと頷いた。


「ほう? 鳥さんが俺の魔法薬を食べてくれたのかぁ……」

「う、ううう、うん!」


 恐怖で返事がうわずった!

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