第九話 ティーモ大臣の結末
ティーモ大臣は、オーガスト王子の部屋に見舞いに来ていた。オーガスト王子のほつれた髪の毛をさらりと流して、ティーモ大臣は微笑んでいる。
「オーガスト様、ついに貴方を毒殺しようとした犯人を捕まえることができました……」
ささやかな微笑みは、部屋になだれ込んできた足音に崩された。
「ティーモ大臣を捕まえろ!」
「な、何をするのです……!?」
あっという間に、ティーモ大臣はガーディアンに拘束された。
その中には、私もクリストファー王子とエルヴィンもいる。
「クリストファー王子!? それに、エルヴィンさんに芽々さん……!?」
「兄上を毒殺しようとしたのはティーモ大臣貴方だ!」
クリストファー王子がティーモ大臣を指差して言った。ティーモ大臣は身をよじって抵抗している。
「毒殺しようとしたのはラーヴです! 私が捕まえたはずです……!」
「ラーヴは真犯人はティーモ大臣だと言っている」と、フームス隊長。
「証拠は!? 証拠は何もないじゃないですか……!」
「ありますよ!」
芽々が言うと、ティーモ大臣の余裕の表情は凍結した。
「この魔法薬を兄上に飲ませて差し上げろ」
クリストファー王子がお付きの者に指示して、魔法薬を手渡した。お付きの者はオーガスト王子に魔法薬を飲ませている。
「そ、その魔法薬は……!?」
ティーモ大臣は、動揺しきっている。まさか、エルヴィンが開発したとでも思っているのだろうか。いくらエルヴィンでも材料がなければ無理だ。どうして、エルヴィンがこの魔法薬を作れたかというと、それは全てラーヴのお蔭だった。
「ラーヴさんが脱走しているときに、他国でやっと手に入れた珍しい薬草『タムタム草』を煎じたものです! 捕まるかもしれないから、煎じて飲ませて差し上げろと手紙に書かれていました!」
芽々が説明しているうちに、その後ろでオーガスト王子が目を開いた。ティーモ大臣はお化けに会った時のように息を詰まらせて、身を強張らせていた。
「う……? 私は……」
オーガスト王子は、視線を彷徨わせていたが、ティーモ大臣を見つけた途端叫んだ。
「私はこの女に毒殺されかかったのだ!」
「くっ!?」
ティーモ大臣は隙をついてガーディアンの手から逃げ出した。
「ティーモ大臣を捕まえろ!」
しかし、すぐに拘束された。ティーモ大臣は柳の枝のように髪を振り乱している。
ティーモ大臣は涙を流しながら、声を張り上げた。
「この人がいけないんだ! 私と結婚しないというから……!」
「ティーモ大臣と私との政略結婚は成立しない! 王家を取り込もうとしても無駄だということだ!」
そういえば、ティーモ大臣は反国王派だって言ってたな。だからか。
なんていうか、お偉いさんの恋愛は大変だ。
「オーガスト様を回復させないように王室付きの調合師を全て解雇してやろうと思っていたのに……!」
それで、『未完草』で『美容薬』を作れと、無茶苦茶なことを言いだしたってわけか。
「それは無理な話ですね!」
エルヴィンは不敵に微笑んでいる。
「だって、エルヴィンは『未完草』を使って『美容薬』を完成させましたから!」
「な、なんですって!? 未完草を使えばすべて未完成になってしまうはずでは……!?」
芽々も、師匠のエルヴィンが誇らしかった。美容薬はちゃんと持参している。
「『日焼け草』これは、煎じて飲むと肌にシミができるという使い物にならない薬草ですが、これに『未完草』を混ぜると、シミができなくなり、更には肌のシミまで白くするという薬効効果が得られました。『美容液』の完成です」
エルヴィンが説明すると、ティーモ大臣は舌を巻いていた。
「まさか、本当にやってのけるとは……! 私は貴方の力を見誤っていたようだ……!」
最後に見たティーモ大臣の笑顔だった。
「連れて行け!」
そして、ティーモ大臣はガーディアンに連行された。そして、ドロップ宮殿は一時の平和を取り戻したのだった。