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8、皐月5月 その4 キャンプ3日目

翌日。いつも通り5時に目を覚ますと、隣にはぐっすり眠った恋の姿。昨日の今日で外に出る気もせずに、着替えて持参してきた本を読んでいると、ドアがノックされた。開けてみてみると、里羅が笑顔で立っていた。

「おはよう、らいらちゃん。調子は大丈夫?」

体調崩したわけでもないのに、心配されて私は首をかしげる。

「ああ、昨日かなり怖がらせすぎちゃったじゃない? だから大丈夫かなって」

私は得心いった。とはいえ、怖がったと言ってもそれは一時期のことで夜はぐっすりだった。

「うん、大丈夫だよー。…それだけ?」

「ううん、もしよかったら今日の買い出しに行かないかなーって思って」

今日の予定はレクリエーションの後にバーベキューだったはずだ。しかし、買い出しに行くにしてもこんなに早い時間に開いているお店なんかあるだろうか。

「この近くに市場があってね、毎年野菜はそこで買ってるの。先生が車を出してくれるのよ」

里羅に言わせると、さすがにお肉は無理だけども、新鮮な野菜のほうがいいということらしい。私にはよくわからないのだけど。

「みんなに聞いたら、らいらちゃんが早起きだって聞いてね」

そう聞いて腕時計を見ると午前6時のちょっと前。恋を見るとまだすやすやと寝息をたてていた。

「恋なら大丈夫だよー。あれで、体内時計は正確だからしっかり起きてくるし」

「そっか。じゃあ行こうかなー」

そういって、履きなれなかったはずの靴を履く。これもこのキャンプに合わせて買ったものだ。いつの間にかすっかりなじんでいた。

「先生ならたぶん玄関前だよー」

そうしてコテージの玄関に行くと、黒い軽自動車が1台止まっていた。どちらかというと可愛いタイプの。

「せんせーい、らいらちゃん連れてきたー」

そう言って、後部座席のドアを開ける。そこにはジャージ姿の海藤先生。明らかに眠そうにしながら、缶コーヒーを飲んでいた。

「おー、お疲れー。しかし、こんな朝早くなくてもなぁ」

「いや、市場は朝しかあいてませんからね」

そう言って里羅は私に乗るように促す。恐る恐る乗ると里羅も乗ってきてそのまま線sネイを急かすようにした。先生はしぶしぶといった感じで運転していた。

「らいらちゃん、使えるアシは使っておくに限るのよー」

と後で里羅から聞いた言葉だ。

しばらくすると山道も開けてきて、少し広い通りに出た。そのまま走っていくとそこそこ大きめの建物。車がたくさん止まっており、一目見ただけでもにぎわっているのがよくわかる。その近くの駐車場に車を止めると、私たちはさっそく建物の中に入った。予想にたがわずそこはすごくにぎやかだった。

「ここらへんじゃ1番大きな市場らしいからねー」

きょろきょろ見ていると里羅が説明してくれる。確か、去年も来たとか言っていたっけ。

「まあもう私たちの分はお願いしてあるから」

そう言ってスタスタと人ごみのなかをすり抜けていく。とある後ろに段ボールを積んだ人の近くに行くと声をかけた。

「おじさーん、おはようございまーす」

その人は気が付いたように振り返っていい笑顔で答えてくれた。

「おお、おはよう。今年も君が担当かい?」

「はいー、今年もお世話になってます」

「ってことはあの先生も健在かー。おや、そっちの子は?」

ふと私に目線がきて、びっくりした。

「今年編入してきた子なんです」

「なるほどなー、よしかわいい子たちに免じてついでにこれも入れておこう」

そう言って脇の段ボールから取り出されたのは大粒のイチゴ。赤く輝いていてとてもおいしそうだ。

「季節的にはちと遅いが、まだまだ現役で食えるもんだ」

そう言って、段ボールを数箱持ってくる。

「こっちにはキャベツと人参が入ってる。あとこっちにはかぼちゃとか重いものを入れた、先生にでも持ってもらいな」

そうやってのんびりしゃべっていると、先生が台車をひいてやってきた。台車の上にはすでに段ボールがひと箱。

「お、先生用意がいいねぇ」

そうしておじさんは段ボールを軽々と持ち上げては台車に積んでいく。イチゴだけは別に小さ目の段ボールに入れて私たちに渡してくれた。

「おじさんありがとねー」

「お世話になりました」

「おう、また贔屓に頼むなー」

そう言って私たちはまた車に戻る。荷物を積み込むと、台車を戻してコテージに戻る。その頃には朝日も昇ってきていて、霧も晴れていた。今日もいい天気なようだ。


 コテージの自分の部屋に戻るとすでに恋は起きていて仕度も万全だった。心配は本当に不要だったようだ。

「おはよーらいらちゃん。もしかして買い出し行ってきた?」

「おはよう、恋。うん、そう」

そう言いながら荷物を整理してそれを持って部屋を出る。そろそろチェックアウトの時間だ。

「みんなおはよー」

ロビーにはもうすでにみんなが集まっていた。まだ眠そうな人、すでに元気な人、ぐったりと疲れたような顔をしている人、様々だ。

 そして、朝ごはんを食べ、フィールドワークを兼ねたレクリエーションをして午前の大半は過ごした。その後はみんなでバーベキュー。私たちが受け取ってきた鮮度抜群の野菜と近くの牧場からお肉が届けられた。これをグループごとで調理して好きなように食べるだけ。それだけだけど、なぜかすごくおいしく感じるから不思議だ。

「しかし、なんで男子の方が仕切ってるのかしらねぇ」

そう里羅がつぶやく。私たちのグループはほとんど都と柚樹で焼いていて、私たち女子陣は食べてばっかりだ。みっさんも食べつつ、二人を手伝っている。

「お前らにやらせるとなー」

「すごく偏った食べ方するやろ」

二人に言わせると、みんなしてお肉しか食べないそうだ。去年も途中から男子たちで仕切りだしたらしい。

「まあ私たちも楽させてもらってるから文句言えないんだけどね。それに焼き加減が抜群なのよね悔しいけど」

そう言って恋もお肉をほおばる。焼いている脇では、夜宵と夏希がお肉をかすめ取ろうと頑張っている。まあその努力は無駄に終わっているけど。

「どう、らいらちゃん。3日間楽しかった?」

里羅が隣に座って聞いてくる。

「もちろん」

帰るまでが遠足です。さて、もう少しみんなと一緒に楽しみますか。


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