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6、皐月5月 その2 キャンプ1日目

5月の半ばも終わり、5月の21日。私は山の中にいた。正確には山の中というより、山小屋というには少し大きいコテージの前にいた。今日から2泊3日のキャンプだ。キャンプと言っても、しっかり泊まる場所も食事も完備されているけど。

「やー1年ぶりだねぇ」

そういう夜宵の手には、iPad。バスの中でずっと新作の案を練っていたそうな。よく酔わないね…。

「ほらほら早く荷物運び込んじゃうよー」

そういう里羅も足取りがうきうきしている。しかし手に荷物はない。

「相変わらず」

「男使い荒いよな、お前ら…」

そう言う柚樹と都、そして黙っているみっさんの手には、女性陣と自分たちの荷物。私は申し訳なくて持ってもらわなかったけど。

「らいらちゃんも持ってもらえばよかったのにー」

「さすがにあの量以上に持たせたら大変そうだし…」

恋は腰に手を当てながら、男子たちを見て私に言った。私もそちらを見て苦笑いしている。といきなり後ろからどーんと抱きつかれる。

「らいらちゃんはー」

「遠慮しすぎなんだよー」

真澄と夏希が後ろから声をかけてくる。そのまま頬をふにふにとつつかれる。

「ほら、松崎姉妹。らいらちゃんが困ってるわよ」

「だぁかぁら、松崎姉妹って」

「呼ばないでよー!」

そう言って、恋を追い回す夏希と真澄。私がひやひやして見ていると、後ろから里羅が言った。

「大丈夫よ。いつもあんな感じだしね。ほら早く入っちゃおう」

そういって、コテージの中に入っていく里羅。それに続くように夜宵、そして少し遅れて男性陣。

「恋―、夏希ー真澄ー、先入るよー」

そういって声をかけるとすぐに戻ってきて一緒にコテージに入った。コテージは外観以上に広く、部屋数も多いようだった。また離れもあるため、学校ひと学年くらい簡単に泊まれる。2人もしくは3人で一部屋。なんとも豪華なものだ。私たちは、男子組、夜宵と里羅、松崎姉妹、恋と私の部屋割りになっていた。

「あと今日は自由時間だし、どうしようかー?」

荷物を置きながら恋が聞いてくる。

「んー…。よくわからないから恋にまかせていいかな?」

それを聞くと恋はよっしゃと言わんばかりにメールを送りだした。おそらくみんなにだろう。返信を確認すると、恋はバッと振り向いて言った。

「それじゃ散歩に行こう!」

その目はキラキラと輝いていた。こういうときの恋は必ず何か考えている。警戒しつつも、まかせると言った手前断ることもできずについていくことになった。

「ロビーに集合になったから、ほら!」

そういって今にも駆け出しそうな恋に手をひかれ、引っ張られるように歩いていった。ロビーにつくと里羅以外のみんながいた。

「あれ、里羅は…?」

そういうと夜宵が答えてくれた。

「先生と打ち合わせだって。大変だね学級委員長」

「まあ仕方ないわよ。それより去年もやったアレ決めとく?」

その“アレ”の一言に男子たちがゲッという表情をした。相当嫌らしい。いったいなんだろう。

「あ、みっさんはらいらちゃんとお願いね。どうせ松崎姉妹は二人でいるんでしょ?」

その言葉にパッと顔を上げる私。がっかりそうに落ち込む都と柚樹。松崎姉妹は笑顔で手を叩きあう。

「恋と夜宵はなぁ…」

「人使い荒いやん…」

そういう都と柚樹は本当に落胆していた。二人は相当人使いが荒いらしい。

「まあ今回はそうしないように気を付けるよー」

そういう夜宵の手には液晶タブレットがあった。本人曰く、こんな時くらい発注かけないでほしいよねということだ。どうもお仕事関係らしい。

「大変そうだね…?」

そう声をかけると夜宵は笑って答えた。

「まあ大変だけどねー。結構形にしていくのは楽しいしー」

そういってうきうきとタッチペンを動かしているのをみると、本当に楽しそう。

「で、恋。俺らはどっちがどっちにすればいいんや?」

「まあ二人で決めていいよ。どっちがどっちでも変わりないでしょ」

そういって外にでていこうとする恋。

「さ、らいらちゃん。せっかくだから外出ようよ」

そう誘われて外に出ると、心地よい風と木漏れ日。木々がさらさらと葉を鳴らしていた。

「んー、さすがに少し肌寒いわね。大丈夫?」

「ちょっとバス酔いしてたっぽいからこれくらいでちょうどいいかも。すっきりするし」

そういうと恋はにっこり笑って、私の頭を撫でてきた。

「少し顔色悪かったものねー」

恋には気づかれていたようだった。すると、後ろから夏希が声をかけてきた。

「え、バス酔い? 大丈夫なん?」

すごく心配そうな顔でのぞきこまれて、私はむしろ笑ってしまう。

「大丈夫だよ。だいぶすっきりしたし」

「でも、無理はダメだよ」

そうやってのんびり過ごして部屋に戻ると、時間的にはもうそろそろ夕ご飯。ご飯が終わって、お風呂に入ったら、恋の提案で、みんなで男子の部屋でパジャマパーティーをすることになった。

 パジャマに着替えて男子の部屋に行くと、布団が敷かれている状態の端の方にテーブルがあって、その上には飲み物とお菓子。まあパーティーと言ってもただ単なるおしゃべりなのだけど。それでも十分に盛り上がる。しかし、そんな中私だけは違っていた。時刻は22時半。家ではみんな22時には寝るので、私にも眠気が襲ってきたのだ。

「眠いなら寝ていいんじゃね」

とみっさんが小声で言ってくれる。

「ん…でも…」

「別にあいつらなら盛り上がってて気にも留めないだろ」

見てみると、恋と夜宵はまるで柚樹と都で遊んでいるようにじゃれついていた。

「ふふっ、そうかもね。じゃあお言葉に甘えようかな」

そう言って立ち上がると、ふらっとよろけた。それをさりげなく支えてくれるみっさん。

「先、部屋戻って寝るね。そろそろ限界」

無理やり笑って言うと、恋と夜宵が心配そうな顔をして言った。

「あー、無理させちゃったっぽいねー」

「ごめんね、大丈夫? おやすみ」

「大丈夫だよー。お先におやすみー」

そう言って部屋を出ようとすると、さも当然のようにみっさんもついてくる。

「大丈夫だよ。一人で戻れるよ?」

そう言っても頑として部屋に戻ろうとしないみっさん。

「こいつ、部屋に送ってくる」

「えー、みっさんそれはないやろー」

柚樹が文句を言いそうになるが、それを阻止する恋。そして笑顔で言った。

「お願いするねー。私ももうしばらくしたら戻るからー」

柚樹の口を押えながら、笑顔で手を振る恋。夜宵も後ろで手を振っている。断る理由をなくした私は、おとなしく送られることになった。

「まあ気にすんなよ。あっちにいたら、もっと大変だからな」

そう言ってそっぽを向くみっさん。その姿に私はおかしくなって笑ってしまった。

「お前なぁ…」

そういってふてくされる姿を見ると、子どもっぽく見える。そうやってのんびり歩いていても、部屋にはすぐについた。

「あ、じゃあここまでで」

「おう、おやすみ」

そう言ってみっさんの手が私の頭に乗せられようとして、ピタッと止まった。私はぼんやりと首をかしげた。

「ああ、悪い…」

そう言って手を下ろそうとするみっさん。その後ろからいきなり声が…。

「ごめーん、らいらちゃん! 大丈夫―?」

恋が後ろから声をかけてきた。みっさんは素早く手を下ろすと何事もなかったかのように部屋に戻ろうとした。途中で恋とすれ違う。

「ありがとね、みっさん」

その言葉を無視してさっさと歩いていくみっさん。私はさらに深く首をかしげた。

「…あら、お邪魔だったかしら?」

そんな恋の一言がだれもいない廊下に響いた。


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