48、弥生3月 その4 終わりの始まり
先輩方の卒業式も終わって、私たちが2年生でいられるのもあと少しという日。そんな日になぜか私は先生に呼ばれていた。まあだいたい理由はわかっている。結局、進路希望調査が出せなかったためだ。
「しかしなぁ、やりたいこととかないのか」
海藤先生が、溜息をつきながら私の持ってきた進路希望の紙を見る。そこには何も書かれていない。
「私はこんなですから」
そう言って手首を示す。そこには治りきって痕が残った切り傷の数々。前の学校での苦痛からやっていたものだった。
「いやいや、そうじゃなくて。とにかく進学とか就職…っていうのはあんまりないのか」
先生はその手首を見ないように手で制し、話を続ける。そして、机の上にあった昨年度の進学先のファイルをめくりだす。
「あんまり悲観的になるなよなー。こっちに来てからはないんだろ、それ」
「ええ、まあ」
「じゃあいい傾向なんじゃないのか? ステップアップするのもいいと思うぞ」
「そういうものでしょうか」
「そういうもんだ。せっかくだからほかのやつらの進路希望でも見ていくか? まあここの連中はそろいもそろって特殊だがな」
先生はそう言って、私に紙束を渡す。それはクラスメイト達の進路希望調査だった。先生がそんなことしていいのかしらと思いながらもパラリとそれを眺めていく。
「ああ、こいつはあれだな。もうちょっとほかの科目の点数あげなきゃだな」
「ふむ、無難なところ選んだか」
先生が私の脇から手元を覗き込み、一つ一つに言葉を発していく。パラリパラリと紙をめくる音と、先生の声だけが聞こえる。最後の1枚まで見終わるとその束を私は先生に渡した。
「参考になりそうか?」
「みんなやりたいこととか、きちんとあるんですね」
「まあ得意が偏ってる連中が多いしな。だからこそ的は絞りやすい」
そして神妙な顔になる先生。私が首をかしげると、先生は笑った。
「今からそんな絞らなくてもいいと思うけどな。俺だって教員免許取ったのとか成り行きだったしな」
そう言って大笑いする。その言葉に私はきょとんとした。
「まあだからそこまで急かなくてもいいってことだ。進学してからでも方向はいろいろあるんだから」
そうして今度は、大学の情報が詰め込まれているのであろうファイルを机の上に置いた。そもそも大学ファイルって書いてあるし…。そのファイルのあるページを開く
「清藤ならここらへんがいいとこじゃないか。後からでもいろいろ選べるし、何より設備がいい。あとはこことかこことか」
そうして学校案内の資料を引き抜いてくれる先生。何も言うことができず、そのまま受け取る私。
「不安だったら、宮東あたりと同じところ狙ってもいいかもなー。お前らの学力も勉強スタイルも似たり寄ったりだしな」
そう言いながら、今まで出してきた資料をしまっていく先生。その様子をぼーっと見ている私。
「まあ一応それ見て、進学したいとか思うことが1番だがな。そうじゃなきゃ何にも始まらねぇ。あと家の人にも話してないだろその様子じゃ」
図星だった私は、肩を揺らした。その様子に苦笑する先生。
「若いうちは金使うんだから、しっかり話しておけ。孝行なんざいつでもやろうと思えばできるんだからさ」
その言葉にコクリと頷く私。その様子を満足そうに眺めて先生は手を叩く。
「よしじゃあ、それ見て家の人とも話をして、明後日の放課後あたりにでもまたここ来い。少しは何かが頭の中にあるだろうよ」
そう言って先生は扉を開けた。
教室に戻ると、みんながまだいた。
「おかえりー。零ちゃんなんだってー?」
「お疲れさん。おそらく進路のことだろ?」
「悩んでたもんねぇ。なんとかなりそう?」
どうもみんな私を待っていてくれたみたいだった。おもむろに恋がカバンからチラシを取り出す。
「よーっし、スイーツショップ寄って帰ろー」
そう言って教室を飛び出す。みんなもそれぞれ後に続く。
「ねえ、みんな」
私の一言にみんなが振り向く。
「もしクラスが変わっても仲良くしてね?」
その言葉にみんながきょとんとする。そして里羅が言う。
「私たちのクラスは変わらないわよ?」
今度は私がぽかんとする番だった。そしてみんなで笑い合った。
これにて、この子たちの物語は一応終わりの形となります。お付き合いいただきありがとうございました。
あとがきっぽいものがあります
こちらからどうぞ↓
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