46、弥生3月 その2 白きカモミールの花
今日はホワイトデー。想いに想いが返される日。そしてそんな日に小さな小さな花の話。
「そういえば、忘れてたね。バレンタイン」
恋がぽつりとつぶやいた3月13日の午後。その言葉にはっとする女子一同。そんな様子を眺めながら、忘れてないんだけどなぁと私は思っていた。確かに渡してはいなかったのだけど。
「ってことはホワイトデーもなしな感じ?」
夏希が首をかしげると真澄も逆方向に首をかしげる。里羅がそんな様子に苦笑いする。
「渡してもいないのに、もらおうとか考えないでよね」
その言葉にはっと顔をあげる夜宵。そしてなるほどといったように顔を輝かせた。
「考えないでね、夜宵」
里羅の釘さしに夜宵はしょんぼりと肩を落として、また机に突っ伏す。私はふと思いついて言う。
「明日、テスト終わりにみんな時間ある…?」
その言葉に首をかしげながらもうなずくみんな。その様子を眺めながら、私はポンと手を打った。
「せっかくだから何か作ってこようと思うんだ。練りきりくらいだけど…」
その言葉に恋が顔を輝かせて続ける。
「じゃあお茶会しましょうか」
そして、テストの終わった3月14日。校舎の普段は行かないような場所に礼法室がひっそりとあった。基本的に文化部の部室が並ぶ棟のこれまた端に。
「さて、らいらちゃん。お菓子見せてー」
そう言って恋は私から菓子入れを受け取る。そんな恋の服装は、淡い桜色に大きな白い聞く模様の着物だった。
「へぇ、菊花かぁ」
菓子入れに入っているのは、白と黄色の2色の菊花だ。私が手作りした和菓子がおさめられていた。
「じゃあ、お茶碗は桃花かな」
そう言って、お茶碗を取り出していく恋。その手際はよく、慣れている様子だった。みんなもわかっているのか、座って眺めている。
「ん? らいらちゃんも座ってていいよ?」
「いや、あの、何か手伝うことないかなって…」
「あー、じゃあそれ、桜のワンポイントのついた袱紗取って」
「これ?」
そうして手に取ったのはいかにも高そうな袱紗だった。桜の文様が綺麗に縫い取られている。
「ここは一式そろっているからねー。昔はもっといいのがあったらしいけど」
恋は手際よくほかの道具も準備していく。そして整うとすっと礼をした。
「まあ形はやるけれど楽にしていてね」
周りを見ると、みんな思い思いに座って恋の所作を眺めていた。その流れるような動作に私も釘づけだった。
「らいらちゃーん、このお菓子の銘はなんていうの?」
「あ、それはカミツレだよ」
「花言葉は…ふーんなるほどね」
里羅が何かに気付いたようにニッコリと笑った。どうも意味に気付いたようだ。カミツレの花言葉は「これからもよろしく」。もちろんそのままの意味を込めた。
「なんだよ里羅ばっかり」
「気になるなら後で自分で調べなさーい」
そうやってニコニコ笑いながら、のんびりと恋の動作を眺める里羅。里羅には何もかもばれているようで私は顔を赤くした。
「らいらちゃん、それじゃばれちゃうわよー」
里羅が笑いながら声をかける。たぶん勘の鋭いみっさんあたりにも気づかれているんだろうなと思いながら恋の所作に目を向ける。
「はい、せっかくだかららいらちゃん1番にどうぞ」
そうやって差し出されたお茶を一口二口と飲む。抹茶の苦みと甘みが口の中に広がる。いつの間にかみんなのもとにもお茶がいっているようでお菓子とともに楽しんでいた。
「相変わらず恋の点てる抹茶はおいしいよね。さすが茶道部」
月曜日に登校すると、意味を調べたであろうみんなから、たくさんの言葉をもらった。




