4、卯月4月 その4 お花見会
来たる4月末日。今日はひと月近く準備してきたお花見会の当日だ。ここの学院は、幼等部から大学院までそろった学校である。そしてその生徒・学生が一堂に会したイベントがこのお花見会なのだ。めったにこうやって会することがない学校だからか、G組のみんなも忙しそうに動き回っている。主に部活所属の子たちが…。
「ごめん、みんな」
「私たち大学部の方行かなきゃー」
と夏希と真澄の松崎姉妹は走っていった。おそらくあちらでも何かしら呼ばれているのだろう。と、柚樹も同じように手を合わせて言った。
「悪い、俺も大学部の教授たちに挨拶に行かねばならんわー」
と、同じように走っていく。
「みんな大変ねー」
とのんびりしているのは、恋と里羅、そして夜宵、満、都だった。まあ、みっさんに関しては座ってのんびりしてるわけでもなく、桜の木にもたれかかっているのだけれども。
「またあいつら忙しくしてるのか?」
遅れて海藤先生が私たちの元にきた。手にはいろいろなものが入ってるであろう大きさにまでなっているトートバックを持って。
「零ちゃーん、お疲れー」
「わざわざありがとうございますー」
恋と里羅が先生に向かって手を振る。私はそれをのんびり眺めていた。
「まあお前らが頑張ったご褒美だからなー。しかし、般若湯持ってこれればよかったんだが…」
「先生、校内です。お酒の持ち込みは禁止ですよ」
般若湯とはお酒のことだ。もちろん、校内での飲酒・喫煙は禁止されている。里羅は笑顔で諭していた。これじゃあどっちが先生だかわからないよ。
「私たちの乾杯はみんなが戻ってきてからにしましょうか」
と、言いながらもてきぱきと先生がもってきたものを出して並べていく里羅。トートバックの中には、ジュースやお菓子がたくさん入っていた。
「まあこの時だけの無礼講だな」
そういって、都も里羅を手伝う。しかし、そこまでの量ではないのですぐに終わった。と、そこへ夏希が猛スピードで走って戻ってきた。さすが陸上部、足が速い。そのあとを追いかけるように真澄と柚樹も戻ってくる。
「おつかれさまー。はい、これ」
里羅が慣れた様子で、3人に紙コップを渡していく。私たちのほうにも同じように渡された。
「よし、みんな持ったなー。それじゃ、お花見会の成功と清藤の歓迎を祝ってかんぱーい」
海藤先生が音頭を取る。それに合わせてみんなが紙コップを持ち上げる。それぞれ思い思いに食べたり飲んだりしている。のんびりした空気がその場を包み込んだ。
この学校の特徴のひとつ。それは異様に行事が多いことだ。ほぼ毎月と言っていいほど何かしら行事がある。それでも学業は疎かにはされず、それなりの偏差値を保っている。そして、2年G組の特徴。“特別”と言われているこのクラスには、まだまだ隠された秘密がたくさんあったのだ。それが語られるのはこれからまだまだ先の話になる。
もちろん、私もまだまだこのクラスのことは知らないことだらけだ。しかし、このクラスならやっていけそう。そんな確信が私の中に広がった。
こうして、私のいきなり始まった新しい生活の最初のひと月がやっとのことで終わったのであった。