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38、睦月1月 その2 一方の夜宵

「帰ってきたらそっちでの話聞かせてね、か…」

私は恋からきたメールを見てつぶやいた。そして鏡を見る。そこには普段と違う、イブニングドレス姿の私がいた。


 某国のゲーム会社と日本のゲーム会社のコラボのため、システムプログラマーとして会議だけに参加する予定だった私は、いつの間にか懇親会にも参加させられていた。日本から来た面々がノリノリで用意していたためだ。

「まさかこんなことになるとは…」

壁の花を決め込んだ私は、周囲で談笑している人たちに目をくれて、グラスを一息にあおった。事前に私のことを伝えてくれていたのかしっかりアルコールがないものも置かれていた。

「ハイ、ヤヨイ。キミはいつまで壁の花を決め込んでいるんだい?」

向こうのシステムプログラムを担当するジニアスが声をかけてきた。普段から陽気な性格らしく、いろいろな人に声をかけて回っていたように見えたのだが、それもどうやら終わったらしい。

「私ごときは花にもなれない蔦のようなものですよ」

そうして笑うと、ジニアスはいきなり手を取ってきて、顔を近づけてきた。

「アナタは美しい華ですよ」

その顔の真剣さに戸惑っていると、誰かが彼を呼ぶ声が聞こえた。彼も気づいたらしく、すぐに手を離すと行ってしまう。握られた手を見て首をかしげていると、私と一緒に来たシナリオライターさんがニコニコしながら近づいてきた。

「夜宵ちゃん、口説かれていたねぇ」

「あれ、口説かれていたっていうんですか?」

そういうと彼女は複雑そうな顔をした。

「夜宵ちゃん、元がいいんだけど難アリだよね…。もったいない…」

「まあ興味ないことはとことんないですから」

「だからこそ、仕事面での信頼もできるんだけどねー」

そういうと彼女は持っていたグラスをあおる。その中身はもちろんアルコールだ。

「まあ彼は妻子持ちだっていうから、口説かれても断らないといろいろ面倒よー」

「へぇ、そうなんですか」

「本当にとことん興味ないって顔ね…」

彼女があきれて溜息をつくと、向こうの会社の人たちが口々に私たちに声をかけてくる。ライターの彼女はいろいろな方面からの意見を聴かなきゃと張り切っていた。そうすると自然と一緒にいる私にも目を向けられる。

「まさか、あの有名なプログラマがキミだったなんてなぁ」

「あそこまで精巧なものをどうやって組み上げるんだい」

私に聞かれるのはだいたいそんなプログラムの話。こちらの技術者の間でも有名らしい。私が囲まれているといつの間にか彼女はいなくなっていた。

「この人数を一人で相手しろと…」

そして溜息をつくと、口々に発せられる質問に答えていく。ところどころプライベートなことを聞かれたりもするがそちらは完全に無視だ。そもそも晒せるプライベートなぞない。

「この後時間はあるかい?」

「よかったらお茶をしにいかないかい?」

この国では未成年に深夜のお茶に誘うのかとか思っているとさすがに見かねたのか、1番偉い人が入ってきてくれる。

「彼女はまだ未成年ですから」

「まあそんな堅いこと言わずに」

「それに彼女も困っているようですしね」

ゲーム開発から何から結構付き合いの長い彼は私の愛想笑いを見抜いていたようだった。私のほうを向くと、申し訳なさそうな顔をした。

「ということで申し訳ないのですが」

さすがに自分が言わないといけないところだ。

「まあそういうことなら」

「また完成したころに打ち上げででも」

「それもいいな」

向こうは切り替えがいいのか、すでにゲーム完成後の話で盛り上がっていた。まだまだ先の話だというのに。

「本当はこんな予定じゃなかったって顔してたな」

「まあ何にも聞かされてませんでしたからね」

「とりあえずコラボということで相手方との親睦も大切だと覚えておいてくれ」

そういうと彼は去っていった。


「…こんな話、みんなにできないよなぁ」

私は再び壁の花を決め込んで、つぶやいた。


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