36、師走12月 その4 年末シンフォニー 下
○満の場合
普段寝るだけの部屋の掃除。だから早く終わるはずだと思っていた。思っていたのだが、余計な邪魔まで考えてはいなかった結果…。
「なんで、お前がいるんだよ、恋」
そして俺はこたつでぬくまっている恋に声をかける。もう無気力状態もいいところだ。
「えー、私のほう手伝ってもらったから、手伝おうと思ってー」
「で、今の状態どうなんだ?」
まったく手伝う様子が見えない。どころかあげくのはてには寝てしまいそうになっている。まあ、こういうやつに協力してもらおうとか思ってはいないのだが。
「こたつっていいよねー」
すっかりこたつの魔力にやられている。その気持ちはわかるのだが、そろそろどかして掃除をしてしまいたい。
「…お前まさか、仕事投げ出してきたんじゃないだろうな」
ふと思いついたことを言ってみると、恋が反応をしめした。本当に仕事を投げ出してきたようだ。しかも反応を見る限りなかなかの量を。
「誰か呼ぶか…」
そしておもむろにケータイを取り出す俺を恋が全力で止めた。全力と言ってもなかなか非力なのだが。
「やめて、手伝うからそれはやめて!」
「お前なぁ、仕事ほっぽって他人様に迷惑かけるわけにはいかないだろ」
「だってそれ、仕事じゃなくてね…」
恋から聞いた話に俺は軽く衝撃を受けた。恋がやっていたことは見合い相手の写真を見ることだったそうだ。恋のお父さんが帰ってきて早々、恋にたくさん冊子を渡したのは全部そういうことだったのか。
「お前のお父さんも早まったな…」
「早まったって何よ…」
「まだ高校生だぞ俺ら」
「って言ったわよ…」
言ったにもかかわらず、恋のお父さんは写真を押し付けてきたらしい。なんとも突飛すぎるところは遺伝なのか。さすがに恋もそんなことは頭になかったのか、面食らったらしい。
「どうしよう、ねえ」
「どうするもこうするも、断るしかねえだろ」
「断ろうにも、声かけるたびにいい笑顔で振り向かれるのよ…」
なんとなく想像はできる。俺自身も長い付き合いがあるから。しかし、今回のことはとんと頭にはなかった。
「いっそ1回見合いしてみたらどうだ」
「おっさんばっかの写真から選べと」
恋は律儀に数枚のお見合い写真を持ってきていた。見せてもらうと、確かに一回りほど離れた男性ばかり。
「断るしかねえな」
「どうしよう…」
「とりあえずお前のお兄さん呼ぶからそっちで話つけてくれよ」
そしてケータイを取り出し、紫苑さんに電話をかける。すぐにつながり、恋を探しているとのことだった。
「すぐ来るってよ」
「うう、帰りたくなーいー」
「わがまま言ってないで自分でケリつけろ」
そう言っているとチャイムが鳴る。外に出ると紫苑さんの姿が。近いところだが走ってきたらしい。
「恋! 探したぞ!」
「だってお見合いとかやだ…」
「そういう話は俺らにしろよ。満君が頼れるのはわかるが」
その後、すまんかったなと紫苑さんから謝罪の言葉がきて恋は連れて行かれた。まあ、紫苑さんたち兄弟がなんとかしてくれるだろう。
「…さて、本格的に掃除を始めるか」
○都の場合
年末も近いころ。俺の研究室でも恒例の大掃除が行われていた。といっても、あまりにも雑多すぎるため、どうしても中途半端で終わってしまうのだが。
「都くん、これどうしようか」
今日も相賀さんは俺を手伝ってくれている。自分のこともあるだろうに、後回しにして。
「相賀さん、そろそろ自分のほうやってくださいよ」
「ん? ああ、うん、大丈夫だよ。それにこっちのほうが多いでしょ」
確かにこっちのほうが資料なりなんなりたくさん置いてある。確かに大変ではある。
「いや、相賀さんも自分の研究材料ほったらかしなままじゃないですか…」
つぶやきが聞こえたのか相賀さんが顔をあげる。そしてニッコリと笑った。
「ちょっと休憩にしようか」
相賀さんがコーヒーを入れて、いつもの定位置に座る。そして一口すすると温かい空気が体の中に取り込まれた。
「僕のはもうだいぶ片付いているからいいんだよ」
「えっ、いつの間に…」
「いやまあ、そっちはこっちのほかに学業もあるからなぁ」
どうも12月に入って俺が忙しいときにやっていたらしい。相変わらず抜け目ないのが相賀さんだった。
「じゃあ休憩終わったらもう少し手伝ってもらいますね」
「おう、任せておけー」
とそこでケータイがなった。確認してみると、恋からだった。
『もしもーし』
「なんだよ」
『いやねー、初詣一緒に行こうって思ってー』
「それ、今やる話か…?」
『何事も早い方がいいでしょ? で、あんた今どこにいるの?』
「研究室で片づけしてるよ。そっちのほうはどうなんだよ」
『えー、あー…』
「終わってねえな」
『これから頑張るの!』
「おうおう、わかったわかった。とりあえずメールしてくれ。大晦日には家にいると思うから」
『はいはーい。あ、そうだ。相賀さんいるんでしょ? 伝言おねがーい』
「なんだよ」
『今年もお世話になりましたーって』
そういうと恋は電話を切った。おそらく向こうでもみっさんあたりから急かされているのだろう。
「恋ちゃん?」
「そうです。今年もお世話になりましたって」
「あの子も律儀だねぇ」
「まあ来年もよろしくお願いしますって意味だと思いますけどね」
「そうかもしれないねぇ」
そう言ってひとしきり笑いあうと、おもむろに立ち上がった。
「さて、続きを始めようか」
年が明けるまではあともう少し。




