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35、師走12月 その3 年末シンフォニー 上


○らいらの場合


 私の家では晦日前3日間を使って、おじいちゃんのお弟子さんたちと大掃除をする。普段はおばあちゃんと2人で掃除で十分なんだけど、道場も家も広いのでお弟子さんたちに手伝ってもらっているのだ。ただ、今年はちょっと困ったことがあって…。


「あの、さすがに自分の部屋はお手伝いいらないです…」

というのも、若いお弟子さんたちがこぞって手伝いにきたからだ。普段から掃除をしている私の部屋は、すす払いといつも通りの掃除で済むはず。そのすす払いをやるとお弟子さんたちが言ってきたのだった。

「お嬢さんだけじゃ大変でしょう」

「いえ、あの、毎年のことですし…」

そんなやりとりを遠くでにこにこと見ているおばあちゃんに懇願の目を向ける。が、おばあちゃんは知らん顔して掃除を始めてしまった。こうしている間にもお弟子さんたちがにこやかに迫ってくる。

「あの、お手伝いはいらないです!」

私はそうやって叫ぶと部屋の戸を閉めた。そしてはたきを手に持ち出す。お弟子さんたちはあきらめたのか、それぞれ自分の持ち場となっている場所に戻りだしたようだった。様子を見ようと戸を開けると目の前におじいちゃんがいた。

「やつらも変なとこで色気づいとるのぉ」

そう言ってのんびり笑う。その様子に拍子抜けしながらも抗議の声をあげる。

「気づいてたんなら、何か言ってよ…」

「まあまあ、やつらも年頃だしのぉ」

「年頃って言ったって、私よりいくつも上っていうかもう成人してる人たちばっかりでしょ…? 私まだ高校生だよ…」

「それだけ女として興味を持たれているってことだわい。ちっとは誇らしく思っとれ」

そういうと笑って去っていった。きっと蔵の掃除をしにいったのだろう。私は溜息をついてまたはたきを持ち出す。とそこへ今度はノックする音が。

「お嬢さん、ちょっと休憩にしませんか?」

声をかけてきたのは、私より5つ上のお姉さん的な存在のこの道場の紅一点のすずさんだった。手に持ったお盆の上には急須と二人分の湯飲みがある。

「人気者ですね、お嬢さん」

「ちょっと困るんですけどね…」

そう言いながらお茶を入れてお茶菓子を出す私。道具を持ってきてもらっていても、お茶を入れるのは私がいつもやっていた。

「まあお嬢さんなら可愛くて器量よしですし、引く手数多でしょう。お嬢さんの強さを知らなければ、ですけどね」

「すずさん、それは言っちゃだめでしょう」

そうしてひとしきり笑い合う。

「さて、一息ついたし、もう少し頑張りますね」

「お手伝いはいりますか?」

「大丈夫です。おばあちゃんのお手伝いお願いしてもいいですか」

「わかりました。お手伝いいるようなら言ってくださいね」

そうしてすずさんが部屋を出ていくと、私は気を引き締めるために立ち上がってのびをする。

「さあて、もう少し頑張りますか」




○恋の場合


「今年もこの季節かぁ…」

私は書類の山を目の前にして、溜息をつく。これを処理してあるものとしてないものとわけるところから今日の作業は始まった。

「ねえみっさんなんか面白い話して」

と、部屋の本棚の前で本の整理をしているみっさんに声をかける。

「そんなことしていたら、終わらねえぞ」

みっさんの返答は無常なものだった。まあ正論なのだけれど。

「大掃除ってなんかやだよねぇ」

あきらめた私は、書類を確認しながらつぶやく。仕事の書類にもいろいろあるから困ったものだ。

「普段からどっかの誰かさんがきちんとしておけばラクなんだけどな」

みっさんから耳の痛い言葉が聞こえるが、無視しながら進めていると、1枚の見たこともない形式の書類がでてきた。印は押されていない。

「みっさん、みっさーん」

「なんだよ、ってなんだその書類」

「あ、やっぱり? お姉ちゃんのかお兄ちゃんのか混じってたのかな」

そう言って手元にあるベルを鳴らすと、すぐにメイドさんの一人が部屋にきた。

「兄さんか姉さんにこの書類のこと聞いてきて」

そういって渡すとメイドさんは一礼して立ち去る。その手早さには感服するばかりだ。しばらくするとそのメイドさんは戻ってきた。

「心当たりはない…か…」

そう言って溜息をつくと扉がノックされた。出てみると、ティーセットを持ったお姉ちゃんの姿が。

「恋ちゃん、ちょっと休憩しない?」

私はその言葉に待ってましたと言わんばかりに飛びついた。


 お茶を飲みながらするのはさっきの書類の話。お兄ちゃんにもお姉ちゃんにもまったく心当たりがないらしい。

「そうするとお父さんか、お母さんか…だよね」

「そうねぇ。たまに間違ってくるものねぇ」

そう言ってその書類を眺めるお姉ちゃん。どうも文面を読んでいるようだ。私には読めない言葉で書いてあった。

「アフリカ圏で何やってるのかしらねぇ、お父さん」

どうも文面を読んで、どこからきたものかわかったらしい。しかし、アフリカ圏とはまた遠い。

「明日には戻ってくるみたいだから、その時にでも聞いてみましょうかねぇ」

「へぇ、明日戻ってくるんだ。お母さんは?」

「お母さんは明後日以降になるって。久しぶりに家族そろってのお正月になりそうね」

そう言って笑いあう私たち。一息つくと、お姉ちゃんは立ち上がった。

「まだ自分のとこも終わってないの。恋ちゃんも頑張ってね」

そう言ってお姉ちゃんは部屋を出ていった。

「だってよ、恋」

「わかったよ、やればいいんでしょ、やれば」

私のほうはまだまだ終わりそうにないです。


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