31、霜月11月 その3 満の話
「なんでお前らがここにいるんだ…?」
ある休日。朝早くから満は清藤道場に行っていた。時間に余裕ができたため、昔の師匠から稽古をつけてもらうためだ。道場に行けばらいらもいる。稽古が終わった後、お茶をいただいてから帰ってくると、行くときにはかけていたはずの鍵が開いていた。一人暮らしの一軒家の。
「いや、うんこれには深いわけがね」
そういうのは、都。なぜか台所に立って洗い物をしていた。その奥の部屋では、柚樹がテーブルを拭いていた。
「とりあえず片づけていいか? 後できちんと説明するから」
そう言って手早く片づけてしまう都。なぜ人の家の戸棚の中の皿の配置まで覚えているのだろうか。満がそう思っていると、片づけ終わったのか手を拭いた都と目が合った。
「とりあえず、みっさんの家だけども、座って」
満は溜息をつくと、手近にあった椅子に座る。都と柚樹もそれに倣ったように座った。
「で、なんで閉めたはずの鍵が開いていて、お前らがいるんだ」
満が落ち着きながらも低い声で問いかけると、都と柚樹が肩を縮こまらせて言った。
「恋に呼び出されたんだよ…」
「お仕事飽きたからみっさんちに避難するーとかいいおってな」
どうももともとの元凶は恋らしい。しかし、その恋の姿はどこにも見当たらない。いるような気配すら感じない。
「で、その当の元凶はどうしたんだよ」
「見事に葵さんに捕まりました」
そう言う都は苦笑していた。そうとう駄々をこねたのだろう。満はそう思いながら頷いた。それならまあ納得できる。
「しかし、恋はみっさんの家の鍵を持ってるんやな」
柚樹がおちゃらけて言ってくる。まあこれにはちゃんとした理由があるのだが。
「ここはまあ砂野家の所有物件だからな。持っててもおかしくはないしな」
砂野家の専属ボディーガードを務めている祖父母の代から支給されるような形で住む場所が与えられていたらしい。今もその名残で、こうして家を借りているわけだ。家賃は、その分恋のガードとお守りのようなものだが。
「はー。あらぬ関係かと思ったわぁ」
そう言って溜息をつく柚樹。そしてはっと気づいたように満を見る。
「とりあえず無断で入ったことはこの通りや」
そう言って頭を下げる都と柚樹。まあ、この二人に悪気はない。もともとは恋の気まぐれとサボりからきているのだから。
「恋なら仕方ねえよ」
そう言って自分の部屋に行こうとする満。そして気づいたように戸口から二人に声をかける。
「せっかくだ。遊んでいくか? というかしばらく休んでけよ。恋の相手で疲れただろ。あ、できればなんかつまめるもん買ってきてくれると助かるわ」
しばらく恋に対する愚痴祭になることは間違いなかった。
後日。葵に怒られたあとで、満にも怒られた恋がふてくされて登校してきたのは言うまでもなかった。




