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3、卯月4月 その3 学校案内

「っつ、痛った…」

お花見会の準備中のことだった。不注意で私は紙で指を切ってしまった。こういうのは地味に痛い。

「らいらちゃん大丈夫? 保健室行く?」

恋が心配そうにのぞきこんでくる。思ったよりも深く切ったらしくティッシュで押さえても血が止まる気配がまったくない。

「あー、うん、行こうかな」

「そういえば、らいらちゃん場所わかるの? 案内するよ?」

里羅が教室の扉を開けて手招きする。そのまま教室内に二、三の言葉を言い置いて二人で歩き出す。

「それ痛いでしょ?」

「うん、まあこういうのって地味に痛いよね」

「そうそう。私もよくドジするからよくわかる」

と話しながら歩いていると保健室にはすぐについた。保健室は事務室のすぐ隣、玄関からもそう遠くないところだった。普段は、死角になっていてなかなか見えにくい位置だけれども。

「せんせーい、指切っちゃったんですけど」

奥から出てきたのは不思議な雰囲気をまとった女性だった。里羅が言ってることと白衣から保健医の先生だと思うけれど、それにしてもとても若い印象がある。

「はいはーい。あらあら、G組の新入生の子ねー。零ちゃんがなかなか紹介してくれないから、そろそろ会いに行こうと思ったわよー」

にこにこ笑顔で頭を撫でてくる保健医の先生。この学校は頭をなでるのが好きな人が多いのだろうか。

いきなり撫でられたのに思った以上の反応を示したのか、先生がますます笑顔になる。里羅がため息をついて、こっそりと耳打ちしてくれる。

「先生はちょっと女の子が好きなだけで、腕はいいから大丈夫よ」

「里羅さん? さすがに聞こえてるわよー。さて、はい、ちょっと傷見せてねー」

といって手を差し出してくる先生。私は止血していたティッシュを取って見せる。

「あらー、これはまた結構深く切ったわねー。何で切ったのよ?」

「紙ですよ。刃物だったらもっと心配してますよ」

「紙ねー。しかしここまで深くよく切れたわねー。ドジっ子? 里羅さん並み?」

「先生…、そのドジっ子はやめてくれませんか…」

私が首をかしげていると、先生が手際よく消毒と包帯をすませる。

「ああ、里羅さんはここの常連なのよー。よく転ぶわ、よく切るわするよねー」

「だからその話は…」

「あ、ここに名前書いといてね」

そして、紙を差し出す先生。そこには保健室でよく見るようなことが書いてあった。

「らいらちゃんはうまく手動かせないでしょ。私書いとくよ」

さらさらと必要事項を書いていく里羅。そのあいだ、私はなぜか先生に撫でられ続けた。

「里羅さんはねー、しっかりしてそうに見えて結構なドジっ子さんなのよー。ここの常連さんでねー」

「はい、先生。書き終わりましたよ」

里羅が渡した紙には達筆で私の名前とクラス、そしてけがの種類が書かれていた。

「相変わらず達筆さんねぇ」

「どうも、お褒めにあずかり光栄です。さ、らいらちゃん、戻ろう」

そういってさっさと出て行こうとする里羅。どうも保健室の先生と里羅はそりが合わないらしい。

「わ、ちょっと待って」

私も慌てて保健室を出る。と、戸口で溜息をつく里羅。

「私どうもあそこ苦手なのよ…。先生は嫌いじゃないんだけどね」

どうも先生の問題ではなかったらしい。里羅はどちらかというと雰囲気が嫌いなのでろうか。と考え込んでいると。

「いや、そこまで考えなくていいよ。ただここ幽霊でるってもっぱらの噂でね。ほら、学園七不思議ってやつ」

学園七不思議という言葉に私は反応してしまったようだった。里羅が気づいて笑う。

「そんなに気になるなら教えるよー。ついでに教室も案内しようか」

私はいまだ、この学校の中をよく知らなかった。基本的に玄関と教室の往復だけだったからだ。

「お願いしていーい?」

「もちろん! あ、でもそんなこと言ったら恋たちも行きたいとか言い出しそうだし、教室戻ってからにしようか」

と教室に戻ると、昼休みも近いのか、すでに道具の片づけをしていた。

「あ、おかえりー。らいらちゃん傷大丈夫―?」

恋が心配して、腕を取ってくる。大した傷ではないのだけれど、先生の手によってまかれた包帯が痛々しかった。

「大丈夫だよー」

「今、らいらちゃんに校内見て回ろうって話してたんだけど、恋も来る?」

「わー、行く行くー!」

ということで、恋と里羅に校舎案内をしてもらうことに。まずは教室に近い2階からということになった。

「まずは教室の隣の図書館ね。2階と3階が校舎階段とは違う階段でつながってるの。ものすごく広いし、蔵書量もすごいよ」

「調べ物はだいたいここですむけど、資料足りなくなったら手続きすれば大学からの貸し出しもできるからねー」

見るからに広い室内は、普通教室2つ分くらい。壁にはぎっしりと本棚があって、右の方には上につながる螺旋階段がある。

「中には挟んで反対側は特別教室棟。2階は理科系とか社会科系とかあと家庭科室かな」

歩きながら順番に紹介してくれる恋と里羅。しかしそこにはいろいろな噂も混じられていて…。

「あ、ここの物理教室の振り子の実験器具はたまに勝手に動くのよー」

教室をのぞきながらひとつひとつ説明していく恋。そして、家庭科室につくとおもむろに戸を開けた。目の前にはなぜか“USB”と書かれたTシャツがあった。

「これも七不思議の一つになってるよね。“USB”Tシャツ」

どうも七不思議の一つのようだった。これは七不思議というのだろうか…。

「だいたいそんなものよー。ホラー系ばっかりが七不思議じゃないの」

と、恋は言うけれど、何かが違うような感じ。

「まあまあ、そう不思議そうな顔しないでらいらちゃん」

「このTシャツもいつからここにあったのか先生方ですら知らないんだし」

よくよく見るとそのTシャツは日に焼けたような感じも汚れているような感じも受けない真っ白なTシャツ。ただ“USB”と書かれてるだけではないということだろうか。

「まあ、ずっと悩んでてもしょうがないから次行こう、次!」

そして私を引っ張って階段を上がっていく恋。それに続くようにして里羅ものぼってくる。

「3階は3年生の教室と芸術科目教室と情報処理室だねー」

「音楽室のピアノがひとりでになるとかいうありきたりなのもあるけど、情報処理室のPCにひとつが異世界につながっているっていうもっぱらの噂よー」

里羅が説明して、恋が七不思議を教えてくれる。それにしても不思議すぎる七不思議だ。

「まあ情報処理室のPCは全部見たけど、そんなのなかったわね」

とさらりと恋。まさか全部調べてるんじゃなかろうか…。

「あ、あとそこの窓から見えるエンゼル像ね。あれも夜に動くとかって話だけど動かなかったわよ」

やっぱり全部検証しているようだ。里羅が苦笑しながら追加で教えてくれる。

「結構恋は好奇心と探究心の塊だからねー」

「そんなこと言うなら里羅だって、次の原稿のネタにするーって張り切ってたじゃない」

「まあまあそんなこと言わないでよ」

里羅が文芸部に所属しているということは前々から聞いていた。ここで発行している部誌は校外でも結構な人気があるらしい。

「あとは1階の保健室の隣の隣。あそこの印刷室のコピー機から占いが出てくるとかってあるらしいのよ」

「ああ、女の子たちの間ではあれがでてきたらすでにハッピーだっていうあれか」

どうも謎の多い七不思議だった。七不思議だから謎でもいいのだろうけど、ここまで謎な七不思議というものはなかなかない。

「まあ広いけどだいたいこんなものかなー」

「七不思議らしくないけどこれでも七不思議なのよー。まあこういうのって楽しんだもの勝ちよね」

そういってウインクを投げかける恋。


こうやって校内見学は終わった。完全に趣味に近かったのだけど、問題はない…よね。

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