26、神無月10月 その2 ただいま準備中です
朝方も寒くなってきて、お布団からでるのがつらくなってきた頃合い。この学校でも、文化祭の季節がきたみたい。普段の授業を少し早く切り上げて、ホームルームに変わった今日は、その文化祭でやる出し物を決める日だった。
「といっても、零ちゃんには話通してあるのよねー」
と、恋がニコニコしながら言っていた。こういう顔をするときの恋は、何かたくらんでいるはずと今までの経験でわかっていた。
「あんまり迷惑になるようなことするなよ…」
みっさんがため息をついて言った。どうも内容を聞かされているのは、里羅だけらしい。そうやって時間をつぶしていると、海藤先生が教室に入ってきた。
「とりあえずまあ文化祭の季節になったわけだけど、砂野から提案だそうだ」
そんな言葉を投げて、先生は教卓脇に椅子を置いて座った。
「えーっと、先生と相談していたのですが、2年G組は逆メイドカフェなるものをやりたいなーと思います」
恋から聞かされたのは、そんな提案だった。メイドカフェはなんとなくわかるのだけど、“逆”ってなんだろう…?
「そもそも、“逆”ってなんや?」
柚樹が、私が思ったことを見透かしたかのように代弁する。クラスのなかでもさまざまな憶測でにぎわっていた。
「うん? えーっとまあ簡単にいうなら性別逆転?」
「というと?」
「女子が男装して、男子が女装?」
そう言う恋がすごくいい笑顔をした。たぶん今の状況はすごく楽しいのだろう。周りからは、ざわめきが大きくなった。
「へー、面白そうじゃん」
夏希が言うと、それに同意するように真澄も頷く。里羅は最初から聞いていたので、笑顔で成り行きを見守っていた。
「もちろん、衣装はこっちで準備できるし、カフェメニューのあてもあるから、そこらへんは心配しなくていいわよ」
恋が追い打ちをかけるように言葉を紡いでいく。その言葉に魅力を感じたクラスメイト達が「いいんじゃない?」というように声を上げ始めた。主に女子たちだったけども。
「そういうことならメイクもこっちで持つよー」
そういって一人の女子が手を上げた。こうなると反対するのはだいたい女装が嫌な男子たちになる。といっても、女子の男装姿には興味をひかれる人が多いらしく、それも少ししかいなかった。一人を除いては。
「恋は俺に女装させたいだけじゃないか…?」
都がぽつりとつぶやいた。女性とも男性とも取れる中性的な顔つきの都は、何度か恋によって女装させられそうになって何度も逃げ出したことがあるらしい。
「まあここまで賛成されたらあきらめるしかないか…」
もうすでに反対することができないと悟ったのか、都は溜息をついて机に突っ伏した。その後ろから夜宵が慰めるように肩を叩いていた。
そして、衣装合わせの日。案の定都が逃げようとしていたところを、恋とクラスメイトの女子に取り押さえられていた。そのまま都はみっさんに預けられると、無理やり着替えさせられたようだ。しかしまあなんというか、似合っている以外の言葉が見つからなかった。
「せっかくだし、ちょっとメイクしちゃおっかー」
そう言って都を取り押さえてメイクをしているクラスメイトの女子。出来上がった姿を見ると、どこからどう見ても女子だった。ちょっとガタイがいいかなくらいの。
「さすが瑠衣ちゃん」
恋が都の姿を見ながら、都にメイクを施していたクラスメイトに言う。
「そっちの服デザインに合わせただけだよー」
彼女は笑いながら言った。
「さすが瓜生さんとこの娘だよねー」
彼女の名前は瓜生瑠衣。恋曰く、彼女はお母さんがメイクアップアーティストだそうだ。
「私たちのフロックコートのデザインまでお願いしちゃってよかったの?」
里羅が心配そうに瑠衣に聞く。私たちの男装衣装は、瑠衣のお父さんがデザインしたそうだ。
「ちょうど仕事がひと段落してたからって」
瑠衣は笑顔で答える。
「じゃあ当日もお願いしようかなー」
そう言って都の肩を叩く恋。都は肩を震わせた。瑠衣は意気揚々と頷いて返事を返した。
「俺は絶対メイクなんかしねーぞ!」
都の声が教室中に響き渡った。




