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25、神無月10月 その1 恋バナしませんか?

秋も深まって、衣替えも終わりまた紺色の制服が目立つ頃、私は冷たい秋雨を窓からぼんやり眺めていた。すでに授業は終わって放課後、天気予報を見ずに出てきた私は見事に傘を忘れたのだった。

「あれ、らいらちゃん。帰らないの?」

里羅がかばんを持って立ち上がる。その手には水色の傘が握られていた。

「んー、傘忘れちゃったから、もうちょっとやむの待ってから」

あいにく、みんなが帰る方向と私が帰る方向はほぼ逆の方向で、入れてもらおうにも遠回りさせてしまうため頼めなかった。

「じゃあ私ももうちょっと待とうかなー」

そう言って私の正面の席に後ろ向きに座ったのは、夏希だった。雨のため屋外での部活が急遽なくなってしまったのだ。真澄もそれに付き合うように隣に座る。

「俺ももうちょっといようかな」

そう言って都も手近な席に座った。柚樹もそれに続くように近くの席に座る。そんなみんなの様子を見ながら里羅は溜息をつく。

「さて、お菓子買ってこようと思うけど、だれか一緒に行く?」

その言葉にみんなが目を輝かせる。里羅はかばんを自分の机の上に置くと財布を取り出した。

「それじゃ、俺も行くわ」

柚樹が立ち上がって、里羅と一緒に教室を出ていく。教室の近くにある購買は、放課後でもある程度のものが残っている。この時間になると少しだけ安くしてもらえることがあるのだ。思った通り里羅たちはすぐに戻ってきた。柚樹の手には二つほどの袋があった。

「賞味期限ぎりぎりのものでいいならって何個かもらっちゃった」

そうして、ちょっとしたお菓子パーティーが始まった。


「そういえばさー、みんなこうやってうだうだやってるけど、恋したりとかはないの?」

それは唐突な里羅の言葉で始まった。その言葉に固まる私。都や柚樹は笑ってごまかしていた。

「あー向こういたときは」

「何度か告白されてたよねー」

夏希と真澄は、留学中に何度か交際を申し込まれたりしていたらしい。すべて断っていたらしいけれど。

「そういえばらいらってここ来る前はどうだったんだ?」

都の言葉に食べていたポッキーを取り落としそうになる。少し落ち着いて見回すとみんな期待したような目をしていた。

「女子校だったし…、そんな話はなかったなぁ」

「へー、女子校…。女子校!?」

柚樹が驚いたように声をあげる。里羅だけがわかっていたように頷いていた。

「うん、女子校」

「ここらへんで女子校ってと…」

「あそこしかないよねぇ」

私は転入する前は、市内でも有名な女子校に通っていた。俗に言うお嬢さま学校っていうやつだ。

「へぇ…、じゃあらいらは正真正銘お嬢さまやなぁ」

柚樹が感心したように言う。しかし私にはそんな自覚はまったくなかった。実際、そこまでハイソなイメージは中からは見えなかったからだ。

「まあいろいろあったんでしょうよ。はい、この話はおしまい」

里羅が困っている私を見かねて助け船を出してくれた。みんなは納得いかないようだったが、宣言されてしまったためうやむやになった。

「…そういえば、里羅ちゃん。なんでこんな恋バナみたいなの出してきたの?」

真澄がふと思い出したように里羅に聞く。その言葉に里羅があわてたような顔をする。

「なになに~?」

「好きな人でもいるの~?」

夏希と真澄が追い打ちをかけるように言う。里羅があわてたように手を振った。

「違う違うそうじゃなくって!」

あわてている様子がさらに怪しさを助長させる。みんなでじーっと里羅を見ていると、里羅はあきらめたように俯いてつぶやいた。

「読んでる本にそういうのあって、恋ってどんなものなのかなーって」

言ってから後悔したようにそっぽを向いた里羅。その横顔は若干赤くなっているように見えた。

「まあそんな浮ついた話みたいなのは俺らの中にはないからなぁ」

柚樹が納得したようにつぶやく。その一言にみんなはっとしたような顔をした。

「なんで男女でここまで仲いいのに浮ついた話がないのかってのもなかなかな…」

都もふと思ったように言う。そして、みんなで首をかしげる。しかし、考えていても答えは出そうになかった。

「まあ悩んでても仕方ないわよ。ないものはないんだし」

里羅があっさりと結論を出す。と、ふと窓の外を見ると雨が止んでいた。

「止んだから帰りましょうか」


 湿った空気の中、ちょっとだけ不思議な気分で帰路についた。


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