23、長月9月 その3 食欲の秋(学食編)
どうも私です。なぜかすごい人数に囲まれた中、昼食を食べることになっています。それもこれもいろいろ経緯があるのですが。
「ん? あれ、らいらちゃんっていつもお弁当だよね?」
いつものお昼休み。いつも通りの場所でお弁当を広げながら、里羅が私の手元を見て言った。
「あー、うんちょっとね」
というのも、私の手元にはいつもはあるはずのお弁当がないからだ。それも、朝一でおじいちゃんがお弟子さんを家に泊めたことがわかり、朝ごはんの量が足りなくなったため、急遽私の作り置きしたお弁当のおかずを出す羽目になったからだ。
「らいらちゃんも大変ねぇ」
そう言って有名パン屋の紙袋を取り出す恋。いつも学校に来る途中で買いに寄るらしい。前に一口もらっとことがあるが、とてもおいしかった。
「まあ、そういうことは前にもあったし、仕方ないかなぁ」
そう言いながらお財布を取り出す私。購買にでも行こうかと教室を出ようとしたところで呼び止められた。
「あー、もう行かない方がいいで。時間的に1番混むから」
柚樹のその言葉に廊下の先を見ると、購買に群がる生徒の大群が。その様子に若干顔が引きつる。
「もうちょっと早く言ってくれれば、少しは協力できたんやがなぁ」
「気づかなくてごめんな」
そういう都と柚樹の手元にはすでに購買で買ったと思しきビニール袋が。困り果てていると、後ろから声をかけられる。
「らいらちゃんごはんないのー?」
「これから学食行くけど一緒に行く?」
松崎姉妹だった。二人とも財布を持っている。後ろでみっさんもかばんから財布を取り出しているところだった。
「学食かぁ。行ったことないのよねぇ私」
恋がぼんやりとつぶやく。その目は好奇心に満ちていた。
「みんなも行く…の…?」
真澄がちょっと困ったような顔をしながら言った。しかし、そんな表情にも気づかず恋は大きくうなずいていそいそと紙袋を持ち出した。
「おーい、夜宵ー。学食行くけどどうするー?」
夏希が机に突っ伏して寝ている夜宵に声をかける。夜宵はのんびり顔をあげると「いってらっしゃい」と小さくつぶやいてまた机に突っ伏した。
「夜宵は行かないっと。で、柚樹と都はどうすんだ?」
みっさんが一応と言わんばかりに都と柚樹に声をかける。
「あー、このメンツじゃあな」
「行った方がいいんちゃうか」
柚樹と都は何かを察したように、行くとうなずいた。
学食は校舎の最上階、4階にある。そこまでのんびりと歩いていると、いたるところですれ違う生徒に見られる。その視線の先にいるのは、だいたい恋かみっさんだ。学食につくと、生徒が多くてもなお広く見える空間が広がっていた。
「とりあえず席探すか、席」
そう言って、さっさと前を歩く都と夏希。すぐにみんなで座れる場所を見つけて手を振ってくれる。そこに行くまでの間もいろいろな生徒に注目される。
「だから、恋と行くのは勘弁願いたかったんだよなぁ」
夏希がぽつりとつぶやく。恋はみんなに笑顔を振りまきながら、ゆっくりと歩いてくる。まるで芸能人みたいだ。
「やっぱり恋って人気なんだね」
私がつぶやくと、真澄がそれに付け足すように言う。
「恋ちゃんにはファンクラブもあるからねぇ」
「ファンクラブ!?」
私が驚いている脇で、都と柚樹がうなずいている。
「まあ最初はそんな反応するやろなぁ」
「仲良くなった当初はファンクラブからの圧がすごかったしね」
夏希もしみじみと思い返しているようだ。そんな私たちには気づかず恋はすとんと腰をおろして言った。
「なんの話?」
「恋のファンクラブの話。私のときってあれどうやって黙らせたんだっけ?」
夏希の言葉に恋は少し考え、そして思い出したように言う。
「私の友達に迷惑かけたら解散以上のことをするわよって笑顔で言ったわね」
さらりと答えた内容は、聞きようによってはかなり物騒なものだった。その言葉にみっさんだけがしみじみとうなずいた。
「それ実行に移したのは俺だったもんな」
どうもそういうことは何度かあったらしい。そう思うと少しだけ身震いした。
「しかし、思った以上に人が多いわね。らいらちゃん大丈夫? 買ってこれる?」
恋がぽつりと言う。後ろのほうで都と夏希がだれのせいだと言わんばかりの視線を送っているが気づいてはいないようだ。そのうち夏希はあきらめて、真澄と私の手を取った。
「とりあえず何か買いに行こうよ。こっちこっち」
そう言って大きな自動販売機のもとに連れられていく。ざっと見ただけで数十種類、下手すると100種類以上におよぶメニューが書かれていた。
「ここで食券を買って注文するんだ」
そう言って夏希がお金を入れてボタンを押す。押していく。はたから見ても食べすぎなのではと心配するくらい押していく。
「あ、らいらちゃん驚いた? なっちゃんはあれくらい普通に食べるよ」
わきで真澄が口添えをしてくれる。そんな私たちにはお構いなしにどんどんメニューを選んでいく夏希。その夏希の手がふと止まった。
「まっちゃんまっちゃん、季節限定スイーツ出てるよー」
その言葉に真澄は目を輝かせて、すぐに食券を取った。しかも季節限定と書かれているもの全種類。
「まっちゃんはああ見えて最新とか限定とかに弱いんだ。たまに新聞部に学食レビューお願いされているよ」
この二人は極端だけどやっぱり似ている。そう思いながら私もメニューを選ぶ。悩んだ末に選んだものは無難にサンドイッチのセットだった。
「夏希ちゃん相変わらずねー。すぐだから待っててねー」
学食のおばさんたちとも顔なじみらしく、笑顔で答えてくれる。そんな様子を眺めながら、
「たまにはこんなのもいいね」
と口に出していたらしい。夏希がばっと近づいて、
「なかなかいいでしょ」
と笑ってくる。その後に、恋がいなければもっといいけどね、という言葉が聞こえたが聞こえないふりをした。
「さあて、行きますか」
と夏希の手にはおぼんが2枚。その両方にたくさんの食べ物がのっている。それを器用にバランスを取りながら席に戻ると、さっき以上の人が私たちの席の周りにあふれていた。
「恋さん、恋さん。この人たちどうにかなりませんか?」
夏希がおちゃらけてあえて丁寧な言葉で言うと、周りが気づいたのかさっと道が出来上がる。そこをするすると通って席につくと、手を合わせて食べ始めた。
「相変わらずね、夏希」
そう言いつつも、恋もパンを手に取っている。ほかのみんなも周りは気にしていないようだった。
初めての学食は、人の視線にさらされて味なんてわからなかった。




